京都といえば、宇治茶や抹茶。
少なくとも、京都に住む前の私はそういうイメージを持っていた。
大学時代に4年間京都で暮らしてみると、もちろんお茶は身近だった。
ただ、それと同じくらい印象に残っているのが、喫茶店やコーヒーを飲める店の多さだった。
昔ながらの喫茶店もあれば、学生が入りやすい店もある。街中を歩けば新しいカフェも見つかる。
前回、京都のパン文化について調べたとき、京都市はパンへの支出額が長年全国トップクラスだと分かった。
さらに家計調査を見ていくと、コーヒーも長年にわたって全国上位に入っていた。
「お茶の京都」という外からのイメージとは、かなり違う一面だ。
今回は、京都でなぜこれほどコーヒー文化が根付いているのか、大学時代の記憶も振り返りながら調べてみた。
京都市のコーヒー支出額は、長年全国トップクラス

まず確認したのが、総務省統計局の家計調査だ。
家計調査では、二人以上の世帯を対象に、都道府県庁所在市・政令指定都市ごとの品目別年間支出額が公表されている。
ここでいう「コーヒー」は、豆、粉、インスタントコーヒーなど家庭で購入するものが対象。
喫茶店やカフェで飲んだコーヒー代、缶・ペットボトルなどのコーヒー飲料とは別に集計されている。
過去の集計を見ると、京都市はコーヒーへの支出額で長く全国上位に入っている。
| 集計期間 | 京都市の順位 |
|---|---|
| 2019〜2021年平均 | 全国1位 |
| 2020〜2022年平均 | 全国1位 |
| 2022〜2024年平均 | 全国2位 |
直近で確認できる2022〜2024年平均では大津市が1位となり、京都市は2位になった。
つまり、「京都市はいまも日本一」とは言えない。
ただ、複数年にわたって1位・2位を維持していることから、京都市が全国でも特にコーヒーへの支出が多い都市であることは分かる。
観光客がカフェを利用しているだけではなく、家庭でも日常的にコーヒーを買う文化が根付いているということだ。
大学時代は「コーヒーの街」だとは思っていなかった
この数字を見て一番面白かったのは、京都に住んでいた当時、この特徴をほとんど意識していなかったことだ。
喫茶店やカフェが多いこと自体は感じていた。
大学の近くにもあったし、街中には昔からありそうな店が普通に残っていた。
学生同士で話をするときに使うこともあれば、一人で時間をつぶしたり、勉強したりする場所として入ることもあった。
でも、「京都はコーヒー文化が強い街だから」とは考えていなかった。
京都は学生も観光客も多いから店が多いのだろう、くらいの感覚だった。
京都を離れてから数字を調べて初めて、店が多く感じただけではなく、家庭でのコーヒー支出まで全国トップクラスだったことを知った。
パンの記事と同じで、住んでいると日常すぎて気づかなかった京都の特徴だった。
京都には3種類の喫茶店が共存している

京都市観光協会の公式メディアでは、京都の喫茶店を大きく3つのタイプに分けて紹介している。
- 戦前・戦後から続く老舗の名店
- 地域住民や学生、会社員が使う街の喫茶店
- 若い世代や観光客にも支持される新しいカフェ
京都市観光協会は、京都ではこうしたさまざまなスタイルの喫茶文化が同時に根付いていると紹介している。
実際、大学時代を思い返しても、新しいカフェだけが多かったわけではない。
昔からありそうな喫茶店のすぐ近くに新しい店があり、どちらにも普通に人が入っていた。
京都という街自体が、古いものを残しながら新しいものも取り入れてきた。
コーヒー文化にも、その特徴がそのまま表れているように感じる。
京都を代表する老舗喫茶を調べてみた
京都のコーヒー文化を調べると、何度も名前が出てくる店がある。
代表的な店を整理すると、それぞれかなり違う歴史を持っている。
| 店 | 創業 | 特徴 |
|---|---|---|
| イノダコーヒ | 1940年 | 京都を代表する老舗喫茶 |
| フランソア喫茶室 | 1934年 | 喫茶店として初めて国の登録有形文化財に指定 |
| 六曜社 地下店 | 1950年 | 河原町三条で戦後から続く老舗 |
| 前田珈琲 | 1971年 | 喫茶店を文化・芸術の交流の場として展開 |
イノダコーヒ|「京の朝はイノダから」
京都を代表するコーヒー店として分かりやすいのが、イノダコーヒだ。
創業は1940年。
京都市公式観光サイトでも、京都市内を中心に店舗を展開する老舗喫茶として紹介されている。
特に有名なのが朝限定の「京の朝食」。
公式観光サイトでも、
「京の朝はイノダから」
と言われるほど人気のメニューとして紹介されている。
京都のコーヒー文化を考えるとき、重要なのは単なる観光客向けの人気店ではないことだと思う。
朝にコーヒーを飲み、食事をする。
コーヒーが京都の日常生活に入り込んできたことが分かりやすい店だ。
▼食べログ:イノダコーヒ
フランソア喫茶室|喫茶店そのものが文化財になった
フランソア喫茶室は1934年創業。
京都市公式観光サイトによると、喫茶店として初めて国の登録有形文化財に指定された店だ。
イタリア・バロック様式を意識した内装で、ドーム型の天井やシャンデリア、ステンドグラスが特徴。
店内にはクラシック音楽が流れ、創業時からの雰囲気を残している。
ここまで来ると、単なる「コーヒーを飲む場所」というより、喫茶店そのものが京都の文化の一部になっている。
「京都のコーヒー文化」という言葉が少し大げさに聞こえていたが、建物そのものが文化財になっている店まであると知ると、印象が変わった。
▼食べログ:フランソア喫茶室
六曜社|戦後から河原町に残る老舗
六曜社 地下店は1950年創業。
京都市公式観光サイトでは、河原町三条で戦後から続く珍しい店として紹介されている。
現在は自家焙煎したコーヒーを一杯ずつハンドドリップで提供し、自家製ドーナツも名物になっている。
特徴的なのは、1950年から同じ街で喫茶店文化を残しながら、1980年代には自家焙煎を始めるなど、その時代に合わせて変化してきたことだ。
公式観光サイトも、六曜社について「古いようで新しい、京都の街を表すような喫茶店」と紹介している。
老舗が昔の姿のまま止まっているのではなく、残りながら変化している。
これも京都らしい部分だと思う。
▼食べログ:六曜社
前田珈琲|喫茶店を「人が集まる場所」として考える
前田珈琲は1971年創業。
京都市観光協会の取材記事では、創業者がイノダコーヒで学んだ後に独立して始めた店として紹介されている。
面白いのは、単にコーヒーを提供する店としてではなく、文化や芸術を語るサロンのような役割を意識していることだ。
京都市観光協会の記事では、伝統文化や芸術に関わる人々との交流を通じ、喫茶店を人が集まり語り合う場として捉えていることが紹介されている。
京都には昔から茶の湯の文化がある。
もちろん、日本茶とコーヒーは別物だ。
それでも、飲み物を間に置いて、人が集まり、話し、時間を過ごすという部分には共通点がある。
京都市観光協会の記事でも、こうした喫茶店の役割を茶の湯が持ってきた「人をつなぐ場」と重ねて紹介している。
▼食べログ:前田珈琲
京都でコーヒー文化が強い理由は「店の数」だけではなさそう
ここまで調べると、京都でコーヒーがよく飲まれている理由を、
「カフェが多いから」
だけで説明するのは少し違うように思える。
京都の喫茶店は昔から、
- 朝食を食べる
- コーヒーを飲む
- 新聞や本を読む
- 学生が過ごす
- 地域の人が集まる
- 文化や芸術について語る
といった、複数の役割を持ってきた。
京都市観光協会も、京都の喫茶店を「集い、語らう、街の社交場」と表現している。
つまりコーヒーだけが特別なのではなく、コーヒーを飲みながら過ごす場所そのものが生活に定着してきた。
その積み重ねが、家庭でのコーヒー購入額の高さにもつながっている可能性はありそうだ。
ただし、家計調査の順位と喫茶文化の歴史に直接的な因果関係が証明されているわけではない。
ここは「理由の一つとして考えられる」程度に見ておきたい。
パンとコーヒーが両方全国トップクラスだった
前回調べた京都のパン文化と並べると、さらに面白い。
| 品目 | 京都市の状況 |
|---|---|
| パン | 2023〜2025年平均で全国3位。過去には全国1位 |
| コーヒー | 2019〜2022年平均で全国1位、2022〜2024年平均で全国2位 |
どちらも長年全国トップクラスだ。
もちろん、
パンをよく食べるからコーヒーを飲む
という因果関係までは、この数字からは分からない。
それでも、大学時代を振り返ると、パン屋と喫茶店はどちらも京都の日常に自然に存在していた。
京都と聞くと、どうしても和菓子と日本茶をイメージする。
でも家庭の消費データを見ると、パンとコーヒーというかなり洋風な組み合わせも京都の生活に深く入り込んでいる。
→ 京都は実はパンの街だった|大学時代に住んで感じたパン屋の多さを、家計調査で確かめてみた
「お茶の京都」だけでは見えない日常があった
記事を書く前は、
京都でコーヒーがよく飲まれるのは、観光都市だからカフェが多いのだろう
くらいに考えていた。
でも調べてみると、その歴史はかなり古い。
1930年代から続く喫茶店があり、戦後から現在まで残る店もある。
老舗の横には新しいカフェがあり、それぞれ違う客層が使っている。
そして家庭でのコーヒー支出も全国トップクラス。
単に「おしゃれなカフェが多い観光都市」という話ではなかった。
調べて思ったこと
大学時代に京都で暮らしていたとき、喫茶店やカフェが多いことを特別だとは思っていなかった。
京都では、それが普通だったからだ。
当時、京都らしい飲み物と聞かれれば、抹茶や日本茶と答えていたと思う。
コーヒーは全国どこでも飲むものだと思っていたし、京都独自の文化として考えたこともほとんどなかった。
でも京都を離れて数字を調べてみると、コーヒーへの支出は長年全国トップクラス。
さらに、80年以上続く喫茶店や、地域の人が集まる店、文化や芸術の交流拠点として使われてきた店まで残っていた。
パンの記事を書いたときにも感じたが、住んでいると当たり前すぎて気づかない地域性がある。
観光で京都を見ると、寺、抹茶、和菓子が目立つ。
一方で、4年間暮らした自分の日常を振り返ると、パン屋と喫茶店もかなり自然に入り込んでいた。
「和の京都」と「コーヒーの京都」は、どちらか一方が本当なのではない。
両方が同じ街の中に存在している。
京都は伝統的な食文化を残しながら、パンやコーヒーのような外から入ってきた文化も日常に取り込んできた。
大学時代には気づかなかったが、数字と店の歴史を一緒に見てみると、それも京都の面白い一面だった。
参考・確認した情報源
- 総務省統計局「家計調査(二人以上の世帯)品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング」
- 京都市観光協会「集い、語らう、街の社交場。京都喫茶店文化 ~『前田珈琲』の場合~」
- 京都市公式 京都観光Navi「イノダコーヒ本店」
- 京都市公式 京都観光Navi「フランソア喫茶室」
- 京都市公式 京都観光Navi「六曜社 地下店」
- 京都市公式 京都観光Navi「前田珈琲 文博店」
https://fieldnote-life.com/coffee-machine-living-alone
