ラ・フランスと聞くと、名前の通りフランスから輸入されている果物だと思っていた。
少なくとも私は、スーパーで見かけても「日本で作られている果物」というイメージをあまり持っていなかった。
ところが調べてみると、ラ・フランスは日本国内でも普通に栽培されている。
しかも、その生産はかなり一つの県に偏っていた。
山形県が、全国のラ・フランス生産量の約8割を占めている。
さらに意外だったのは、名前の由来になったフランスでは、現在ほとんど栽培されていないことだった。
フランスで生まれた品種なのに、現在は日本、それも山形県を代表する果物になっている。
今回は、ラ・フランスが日本でどれくらい作られているのか、そしてなぜ山形県にここまで集中したのかを調べてみた。
ラ・フランスは日本でも作られている
まず前提として、ラ・フランスは日本でも栽培されている。
ラ・フランスは西洋なしの一品種で、山形県の「西洋なし品種紹介」によると、1864年にフランスで発見された品種とされている。
和なしとは食感もかなり違う。
和なしはシャリシャリとした食感が特徴だが、ラ・フランスは食べ頃まで追熟させると、果肉が柔らかくなり、なめらかな食感と強い香りが出てくる。
ただ、個人的には品種の特徴以上に、
「日本でこれほど本格的に作られている」
ことの方が意外だった。
名前だけを見れば輸入果物のようだが、実態はかなり違う。
山形県がラ・フランスの約8割を生産している
国内の産地を見ると、山形県の存在感は圧倒的だ。
山形県の「ラ・フランス情報!」では、全国のラ・フランス生産量の約8割を山形県が占めると紹介されている。
さらに、ラ・フランスを含む「西洋なし全体」で見ても集中度は高い。
農林水産省の令和6年産果樹生産出荷統計では、西洋なしの全国収穫量は25,400tだった。
| 都道府県 | 収穫量 | 全国シェア |
|---|---|---|
| 山形県 | 17,800t | 約70% |
| 青森県 | 1,790t | 約7% |
| 新潟県 | 1,620t | 約6% |
| その他 | 4,190t | 約16% |
西洋なし全体でも、約7割が山形県。
さらにラ・フランス単体では約8割。
「山形はラ・フランスの産地」というより、日本のラ・フランス生産そのものを山形県がかなり支えていると考えた方が近い。
ここまで一つの県に集中しているとは思っていなかった。
なぜラ・フランスは山形県に集中したのか

では、なぜ山形県なのだろう。
単純に「寒い地域だから」という話ではない。
農林水産省のGI登録情報では、山形県はラ・フランス栽培に適した気象条件を持つ地域として説明されている。
特に注目したいのが、
6〜9月の降水量が他の産地と比べて比較的少ないこと
と、
果実へ養分が蓄積する8〜9月の昼夜の気温差が9.4〜10.3℃と大きいことだ。
ラ・フランスは病害の影響を受けやすいため、降水量が比較的少ないことは栽培上のメリットになる。
さらに昼夜の寒暖差も、果実の生育に適した条件の一つとされている。
ただし、気候条件だけで全国約8割というシェアになったわけではない。
山形県では1980年代から、生食用ラ・フランスの産地化を本格的に進めてきた。
農林水産省のGI登録情報によると、1988年には収穫期を予測する技術と、産地で追熟させる技術が確立された。
つまり、
栽培に適した気候
↓
産地としての生産振興
↓
収穫時期を判断する技術
↓
追熟技術の確立
↓
品質を揃えて出荷
という積み重ねがあった。
「山形の気候が合っていたから自然に産地になった」というより、気候条件を生かしながら、産地全体で栽培・追熟・出荷技術を作ってきたと考えた方が実態に近い。
「山形ラ・フランス」はGIにも登録されている
こうした産地形成は、国の制度上でも評価されている。
「山形ラ・フランス」は2020年8月19日、農林水産省の地理的表示(GI)保護制度に登録された。
GIは、その地域ならではの自然条件や伝統的な生産方法などによって品質や評価が確立されている産品について、名称を知的財産として保護する制度だ。
つまり「山形ラ・フランス」は、単に山形県で多く作られているだけではなく、
山形という地域と商品の品質・評価との結びつきが国の制度上でも認められている
ことになる。
全国約8割という生産シェアに加えて、産地としてのブランド化まで進んでいる。
山形に集中している理由を考えるうえで、このGI登録はかなり象徴的だと思う。
ラ・フランスは「収穫したらすぐ食べる果物」ではない
今回調べていて、産地以上に面白かったのがこれだった。
ラ・フランスは、収穫してすぐ食べる果物ではない。
山形県の品種紹介では、ラ・フランスの収穫期はおおむね10月上旬〜中旬。
一方で食べ頃は11月上旬〜中旬と紹介されている。
つまり、収穫後に一定期間置いて追熟させる必要がある。
収穫直後の果実は硬く、ラ・フランスらしいなめらかな食感や香りも十分ではない。
追熟することで果肉が柔らかくなり、香りや食味が変化していく。
ただ単に「収穫後に置いておくだけ」ではなかった。
追熟の前に「予冷」という工程がある

JA全農山形県本部によると、山形のラ・フランスでは、10月中旬ごろに収穫した果実をまず2〜5℃程度の冷蔵庫で約7日間冷やす「予冷」という工程を行う。
その後、常温に戻して追熟させる。
流れを整理すると、
収穫
↓
2〜5℃で約7日間予冷
↓
常温へ戻す
↓
追熟
↓
食べ頃
という形になる。
この「一度冷やしてから熟させる」という工程は、今回初めて知った。
果物というと、
木の上で熟す
→ 収穫
→ すぐ食べる
というイメージが強い。
ラ・フランスはむしろ、
収穫してから産地側で状態を整え、食べ頃へ近づけていく果物
だった。
山形で追熟技術が重要になった理由も、この特徴を知ると分かりやすい。
山形県では「いつから売るか」まで決めている
さらに山形県では、ラ・フランスの販売開始時期まで産地全体で調整している。
山形県の「ラ・フランス情報!」によると、県では品質を保ちながら適熟の果実を販売するため、販売開始基準日を設定している。
例えば令和7年産では、
- エチレン処理品:10月23日
- 通常品:10月28日
が販売開始基準日だった。
つまり、早く収穫できた農家から自由に売り始めるのではない。
産地として、
「この時期から販売する」
という目安を揃えている。
これも、山形が単純にラ・フランスを大量生産しているだけではないことが分かる部分だ。
栽培だけでなく、
収穫
→ 予冷
→ 追熟
→ 出荷
→ 販売開始
まで含めて産地全体で品質を作っている。
見た目だけでは食べ頃が分かりにくい
ラ・フランスには、もう一つ特徴がある。
熟しても果皮の色が大きく変わらない。
山形県も、ラ・フランスは外観の変化が少なく、食べ頃の判断が難しい品種だと説明している。
バナナなら色が変わる。
柿なら柔らかくなって見た目にも変化が出やすい。
一方、ラ・フランスは見た目だけでは判断しづらい。
食べ頃の目安としては、軸の周囲にしわが寄ってきたか、軸周辺を軽く押したときに少し柔らかさを感じるかなどを見る。
こうした扱いの難しさを考えると、産地側で追熟や販売開始日まで管理している理由も納得できる。
実際に山形に行って購入した時も、へたの周辺を押して少しへこむくらいが食べごろと、
農家の人に教えていただいた。
実はフランスではほとんど作られていない

そして、今回一番意外だったのがここだ。
ラ・フランスは、名前の通りフランスで生まれた品種だ。
山形県によると、1864年にフランスで発見された。
ところが、現在のフランスではほとんど栽培されておらず、知名度も高くないと山形県は紹介している。
日本では「ラ・フランス」という名前自体が、高級な洋なしのイメージとして定着している。
その一方で、本国では主力品種ではない。
流れを整理すると、
1864年にフランスで発見
↓
日本へ導入
↓
山形県で生産振興
↓
1980年代に追熟技術などを確立
↓
国内生産の約8割を山形県が占める
↓
2020年に「山形ラ・フランス」がGI登録
となる。
フランスで生まれた品種を、日本の一地域が長い時間をかけて自分たちの特産品へ育てた。
名前から想像するより、かなり「山形の果物」だった。
山形ではラ・フランス以外の西洋なしも作られている
山形県で作られている西洋なしは、ラ・フランスだけではない。
山形県の品種紹介を見ると、
- オーロラ
- バラード
- メロウリッチ
- シルバーベル
など、複数の品種が栽培されている。
中には、山形県内で育成された品種もある。
つまり山形県は、単にラ・フランスだけを大量に作る産地ではなく、西洋なしそのものの栽培技術や品種開発を積み重ねてきた地域でもある。
西洋なし全体で全国収穫量の約7割を占めるのも、ラ・フランスだけの偶然ではなさそうだ。
調べて思ったこと
今回調べる前は、
ラ・フランス=フランスから輸入されてくる洋なし
くらいのイメージだった。
実際には日本国内で普通に作られていて、その約8割を山形県が占めている。
西洋なし全体でも、約7割が山形県産だ。
それだけでも十分意外だった。
でも、調べていくと、
原産国フランスでは現在ほとんど作られていない。
収穫してすぐ食べるのではなく、予冷と追熟を行う。
販売を始める日まで産地で調整している。
「山形ラ・フランス」はGIにも登録されている。
と、名前だけでは見えてこない背景が次々に出てきた。
最初は「山形は気候が合っているからラ・フランスが多いのだろう」と思っていた。
気候が向いているのは確かだ。
ただ、それだけで全国約8割にはならない。
1980年代から生産を振興し、収穫時期の予測や追熟技術を確立し、産地全体で販売時期まで管理してきた。
気候条件と、人が積み重ねてきた産地づくりの両方があって、今の山形ラ・フランスがある。
フランスで生まれた果物を、日本の一つの県がここまで代表的な特産品へ育てた。
調べる前より、「ラ・フランス」という名前から受ける印象がかなり変わった。
参考・確認した情報源
- 山形県「ラ・フランス情報!」― 全国生産量の約8割、販売開始基準日
- 山形県「西洋なし品種紹介」― ラ・フランスの起源、フランスでの栽培状況、収穫・食べ頃
- 農林水産省「令和6年産西洋なし、かき、くりの結果樹面積、収穫量及び出荷量」― 西洋なしの都道府県別収穫量
- 農林水産省「登録産品紹介 山形ラ・フランス」― GI登録、産地形成、気候条件、追熟技術
- JA全農山形県本部― ラ・フランスの収穫後の予冷・追熟工程

