スーパーのじゃがいも売り場を見ると、
「男爵」「メークイン」「キタアカリ」といった名前が書かれていることがある。
どれも同じじゃがいもなので、最初は形や産地が少し違う程度だと思っていた。
しかし実際には、男爵とキタアカリはホクホクしやすい粉質、
メークインは煮崩れしにくい粘質と、料理したときの性質がかなり違う。
さらに日本で作られているじゃがいものすべてが、スーパーで売るためのものでもない。
北海道では、ポテトチップスなどの加工食品用や、でん粉原料用に仕向けられるじゃがいもの方が生食用より多い。
今回は、まず男爵・メークイン・キタアカリの違いを比較しながら、
日本ではどれくらいじゃがいもが作られ、どんな用途や品種に分かれているのかを調べた。
男爵・メークイン・キタアカリは何が違う?

3品種を最初に比較すると、違いが分かりやすい。
| 比較 | 男爵薯 | メークイン | キタアカリ |
|---|---|---|---|
| 形 | 丸形 | 細長い長楕円形 | やや丸く扁平 |
| 果肉 | 白 | 黄白色 | 黄色 |
| 肉質 | 粉質 | 粘質 | 粉質 |
| 加熱した食感 | ホクホク | しっとり | ホクホク・なめらか |
| 煮崩れ | しやすい | しにくい | しやすい |
| 向く料理 | コロッケ、粉ふきいも、ポテトサラダ | 肉じゃが、カレー、シチュー | じゃがバター、コロッケ、ポテトサラダ |
| 日本での歴史 | 1908年ごろ北海道へ導入 | 1910年代に普及 | 1975年交配、1988年品種登録 |
| 特徴 | 日本を代表する定番品種 | 煮込み料理向き | 男爵を親に持つ黄色肉品種 |
農林水産省も、男爵とキタアカリをホクホクした粉質系、メークインを煮崩れしにくい粘質系として整理している。
同じじゃがいもでも、品種によってでんぷん量や細胞の性質が違うため、加熱したときの食感にも差が出る。
男爵はなぜホクホクする?
男爵薯は、日本で最もよく知られているじゃがいもの一つだ。
北海道によると、1908年ごろに亀田郡七重の農場主だった川田龍吉男爵が導入したことから、
男爵薯と呼ばれるようになった。丸い形で、果肉は白色になる。
男爵は粉質系で、加熱すると内部の細胞が崩れやすく、でんぷんを含んだ部分がほぐれる。
そのためホクホクした食感になる。
この性質は、コロッケやマッシュポテト、粉ふきいものように、じゃがいもを崩して使う料理と相性がいい。
一方、長時間煮込むと形が崩れやすい。肉じゃがやカレーでも使えるが、
じゃがいもの形を最後まで残したい場合にはメークインの方が向いている。
メークインはなぜ煮崩れしにくい?
メークインは、細長い形をしたじゃがいもだ。
北海道では1917〜1918年ごろに府県から移入された記録があり、日本では男爵と並ぶ古い定番品種になっている。
男爵との大きな違いは肉質だ。
メークインは粘質で、加熱してもしっとりした食感を保ちやすい。
細胞が崩れにくいため、煮込んでも形が残りやすい。
農林水産省も、肉じゃが、シチュー、カレーなどの煮込み料理に向く品種として紹介している。
男爵とメークインが長く並んで売られてきたのは、単に形が違うからではない。
「崩して食べたい料理」と「形を残したい料理」で役割を分けられるためでもある。
キタアカリは男爵から生まれた品種
キタアカリは、男爵やメークインよりかなり新しい。
北海道農業試験場で1975年に「男爵薯」と「ツニカ」を交配して作られ、1988年に品種登録された。
つまりキタアカリの親の一つは男爵になる。
見た目は男爵に近い丸形だが、果肉は黄色い。
肉質は粉質で、男爵と同じようにホクホクする一方、舌触りがなめらかで、独特の甘味や香りがある。
農林水産省では、ビタミンC含量が男爵のおよそ1.5倍と紹介されている。
そのためコロッケやポテトサラダ、じゃがバターなどには向くが、
煮崩れしやすいため長時間の煮込みにはあまり向かない。
男爵の特徴を引き継ぎながら、黄色い果肉や食味、
ジャガイモシストセンチュウ抵抗性などを加えた品種と考えると分かりやすい。
なぜ同じじゃがいもなのに食感が違う?
大きな違いの一つが、いもの中のでんぷんと肉質になる。
一般にでんぷんが多く、加熱時に細胞同士が離れやすい品種は粉質になり、ホクホクした食感が出やすい。
反対に細胞が崩れにくい品種では、加熱後もしっとりした粘質の食感が残る。
そのため料理との相性も変わる。
| 作りたい料理 | 向きやすいタイプ | 品種例 |
|---|---|---|
| コロッケ | 粉質 | 男爵、キタアカリ |
| ポテトサラダ | 粉質〜中間 | 男爵、キタアカリ |
| じゃがバター | 粉質 | 男爵、キタアカリ |
| 肉じゃが | 粘質 | メークイン |
| シチュー | 粘質 | メークイン |
| カレーで形を残す | 粘質 | メークイン |
ただし「男爵なら必ず崩れる」「メークインなら絶対に崩れない」というほど単純ではない。
収穫時期や貯蔵状態、切り方、加熱時間によっても変わる。
それでも、品種を選ぶことで料理の仕上がりをかなり変えられる。
日本ではじゃがいもが年間約230万t作られている
2024年産のばれいしょ収穫量は、全国で229万5,000tだった。
都道府県別に見ると、北海道が圧倒的に多い。農林水産省の確報では、主な産地は次のようになっている。
| 順位 | 都道府県 | 収穫量 | 全国に占める割合 |
|---|---|---|---|
| 1 | 北海道 | 1,870,000t | 約81.5% |
| 2 | 鹿児島県 | 81,700t | 約3.6% |
| 3 | 長崎県 | 73,600t | 約3.2% |
| 4 | 茨城県 | 49,700t | 約2.2% |
| 5 | 千葉県 | 27,100t | 約1.2% |
| 6 | 熊本県 | 13,300t | 約0.6% |
| 7 | 福島県 | 12,600t | 約0.5% |
| ― | 全国 | 2,295,000t | 100% |
北海道だけで全国の8割以上を占め、2位の鹿児島県とは20倍以上の差がある。
一方で、北海道以外にも鹿児島や長崎が上位に入っているのが面白い。
じゃがいもは冷涼な北海道だけで作られているわけではなく、
温暖な九州では春作や秋作によって北海道とは違う時期に収穫される。
なぜ北海道でこれほど多く作られる?
北海道の2024年産収穫量は187万tで、全国229万5,000tの約81.5%を占める。
北海道が強い理由は、じゃがいもが冷涼な気候に適していることに加え、大規模な畑作を行いやすいことにある。
特に十勝やオホーツクなどでは、小麦、豆類、てん菜、じゃがいもを組み合わせた輪作が行われている。
じゃがいもだけを同じ畑で連続して作ると病害虫や連作障害が起こりやすいため、
北海道の大規模畑作では輪作体系の中にじゃがいもが組み込まれている。
一方、2位の鹿児島や3位の長崎では、北海道とは気候も作型も違う。
温暖な地域では春作・秋作を利用できるため、
日本全体では産地と収穫時期をずらしながらじゃがいもを供給している。
北海道産じゃがいもの多くはスーパーに並ばない

北海道で約187万tもじゃがいもが作られていると聞くと、
その大半が男爵やメークインとしてスーパーへ送られているように感じる。
実際にはかなり違う。
2024年度の北海道産ばれいしょの用途を見ると、生食用は約22万2,000tだった。
一方、でん粉原料用は約72万2,000t、加工食品用は約53万tに達している。
| 用途 | 北海道の2024年度仕向量 | 割合 |
|---|---|---|
| でん粉原料用 | 約72.2万t | 39% |
| 加工食品用 | 約53.0万t | 28% |
| 生食用 | 約22.2万t | 12% |
| 種子用 | 約11.3万t | 6% |
| その他 | 約28.4万t | 15% |
スーパーで見るじゃがいもは、北海道で作られるじゃがいもの一部にすぎない。
最も多い用途は、むしろでん粉原料になる。
料理用・ポテトチップス用・フライ用・でん粉用で品種が違う

じゃがいもは、すべての用途に男爵を使えばいいわけではない。
北海道の主要品種を見ると、最初から用途に合わせて品種が分けられている。
| 主な用途 | 代表的な品種例 | 求められる特徴 |
|---|---|---|
| 生食用 | 男爵、メークイン、キタアカリ、とうや | 食味、調理適性 |
| ポテトチップス | トヨシロ、スノーデン、ぽろしり | 揚げたときに焦げにくい、チップ品質 |
| フライドポテト | ホッカイコガネ、こがね丸 | 長い形、大粒、油調理適性 |
| でん粉原料 | コナフブキ、コナユタカなど | でん粉収量 |
| 種いも | 各用途向け品種 | 病害のない健全な種いも |
例えばトヨシロはポテトチップス加工に適した品種で、ホッカイコガネはフライ加工に向く。
コナユタカのように、食べることより高いでん粉収量を目的に育成された品種もある。
同じじゃがいもでも、育種の目標そのものが違う。
ポテトチップス用は男爵ではだめなの?
家庭で男爵を薄く切って揚げれば、もちろんポテトチップスは作れる。
しかし工場で大量生産する場合は、別の条件が重要になる。
じゃがいもには還元糖が含まれており、糖が多い状態で高温の油に入れると色が濃くなりやすい。
さらに大きさや形が不揃いだと、機械で一定の厚さに切る効率も落ちる。
そのため加工用品種では、油で揚げたときの色、大きさ、形、貯蔵後の品質まで考えて育成されている。
北海道の品種資料でも、スノーデンやきたひめ、オホーツクチップなどには、
低温で長期貯蔵した後でもポテトチップス加工に適するという特徴が記載されている。
家庭でおいしいことと、工場で大量に加工しやすいことは別の性能になる。
フライドポテトにも専用品種がある
フライドポテトでは、今度は細長い形に切りやすいことが重要になる。
農林水産省が紹介するホッカイコガネは、目が浅く、大粒で、煮崩れしにくいためフライドポテトにも利用される。
北海道の品種資料でも、ホッカイコガネは長楕円形でフライ加工に適するとされている。
丸い男爵よりも、細長く大きないもから切り出した方が長いフライを取りやすい。
スーパーでは形の違いを「個性」として見ることが多いが、加工業者からすると歩留まりにも直接関係する。
じゃがいもから作る「でん粉」は何に使われる?
北海道産じゃがいもの最大用途がでん粉原料と知ると、では何に使うのかが気になる。
ばれいしょでん粉は、食品のとろみ付けや練り製品、菓子など幅広い用途に利用される。
家庭で使う「片栗粉」も、現在市販されているものの多くはカタクリではなく、じゃがいもでん粉から作られている。
そのためコナフブキやコナユタカなどのでん粉用品種では、
食感よりも「畑からどれだけ多くのでん粉を取れるか」が重要になる。
男爵・メークイン・キタアカリとは、品種に求められている性能自体が違う。
九州では北海道と違うじゃがいもが作られる
北海道が圧倒的な産地ではあるが、九州のじゃがいもにも重要な役割がある。
特に長崎や鹿児島では、温暖な気候を利用して北海道とは異なる時期に収穫できる。
品種も違い、長崎などではデジマやニシユタカ、アイマサリなどが使われている。
北海道の奨励品種資料でも、ニシユタカやアイユタカなどは長崎県で育成された品種として掲載されている。
つまり日本のじゃがいもは「北海道産を一年中貯蔵して食べている」だけではない。
北海道の大規模な春植え栽培と、暖地の春作・秋作を組み合わせながら供給されている。
「新じゃが」は品種名ではない
男爵やメークインと並んで売り場でよく見るのが「新じゃが」だ。
ただし、新じゃがという品種があるわけではない。
収穫後に長期貯蔵せず、掘りたてに近い状態で出荷されるじゃがいもを新じゃがと呼ぶ。
そのため男爵の新じゃがもあれば、メークインやニシユタカの新じゃがもある。
大阪市中央卸売市場でも、新じゃがは品種名ではなく、掘りたてのじゃがいもを指すと説明している。
「男爵・メークイン・キタアカリ」は品種、「新じゃが」は収穫・流通状態の呼び方になる。
古い品種が今も残る一方、新品種への交代も進んでいる
男爵は100年以上、メークインも日本で100年以上作られている。
一方で、農研機構や北海道では今も新しい品種が育成されている。
例えば「ピルカ」はメークインのように煮崩れが少なく、男爵並みの食味を持ちながら、
男爵やメークインより多収で、ジャガイモシストセンチュウにも抵抗性を持つ。
「きたかむい」や「ゆめいころ」など、男爵に近い食味を狙いながら、
病害虫抵抗性や収量、皮のむきやすさなどを改善した品種も登場している。
現在の品種改良では、おいしさだけではなく、農家が安定して作れることや加工しやすいことも重要になっている。
調べて思ったこと
じゃがいもの種類を調べる前は、男爵は丸く、メークインは細長いという程度しか知らなかった。
実際には、形よりも加熱したときの違いの方が大きい。
男爵とキタアカリは粉質でホクホクしやすく、メークインは粘質で煮ても形を残しやすい。
さらに印象が変わったのは、日本で作られるじゃがいもの用途だった。
北海道産約187万tのうち、生食用は1割強しかない。
でん粉原料やポテトチップスなどの加工向けの方がはるかに多く、それぞれに専用品種まである。
スーパーで見る男爵やメークインは、じゃがいも産業のごく一部分だった。
家庭では「どの料理に合うか」で品種を選ぶが、生産現場では、
チップにしたときの色、フライの長さ、でん粉収量、病害虫抵抗性まで含めて品種が選ばれている。
同じじゃがいもでも、最初から何に使うかによって作る品種が違う。
そのことが、ぶどうやいちご、トマトとはまた違うじゃがいもの面白さだと思った。
出典
- 農林水産省「令和6年産野菜生産出荷統計」
- 農林水産省「いも・でん粉をめぐる状況」
- 農林水産省「ジャガイモのいろいろな種類」
- 農林水産省「じゃがいも・さつまいも 代表的な品種」
- 北海道「じゃがいもの主要品種紹介」
- 農研機構「ピルカ」
- 農林水産省「品種登録データベース キタアカリ」

