スーパーでいちごをよく見かけるのは冬から春だ。
そのため、いちご農家が忙しいのも収穫する冬だけなのかと思っていた。
実際には、収穫が終わった春から夏には次のシーズンに使う苗を育て、秋にはハウスへ定植し、花が咲けばミツバチを入れる。
ほぼ一年を通して次の工程が続いている。
特に促成栽培では、本来春に実るいちごを11〜12月ごろから収穫するため、
苗の状態や花芽ができるタイミングまで管理する必要がある。
今回は、本州の一般的な促成栽培を例に、いちご農家が1年間どんな作業をしているのかを調べた。
いちご農家の1年をざっくり見ると

地域や品種、土耕・高設などの栽培方式によって時期は変わるが、栃木県などの促成栽培では大まかに次のような流れになる。
| 時期 | 主な作業 |
|---|---|
| 4〜5月 | 収穫終盤、親株管理 |
| 5〜8月 | ランナー発生、採苗、育苗 |
| 8〜9月 | 花芽分化を促す管理 |
| 9月 | 本圃へ定植 |
| 10月 | ハウス被覆、マルチ、開花 |
| 10〜11月 | ミツバチ導入、受粉 |
| 11月〜5月 | 収穫、調製、出荷 |
| 冬〜春 | 摘葉・摘果・病害虫管理などを並行 |
栃木県では9月上中旬に本圃へ定植し、10月下旬には開花する。その後11月から翌年5月まで収穫と出荷が続く。
この表だけを見ると単純だが、実際には収穫している時期にも株の管理や受粉、病害虫防除が続き、春になると次作の苗づくりまで重なってくる。
4〜5月|収穫しながら次のシーズンが始まる
冬から続いてきたいちごの収穫は、春になってもすぐには終わらない。
栃木県では11月ごろから始まった出荷が5月まで続く。
生産者は収穫が始まると、ほぼ毎日のように果実を収穫し、
サイズや品質を確認しながらパック詰めなどの調製を行う。
一方、この時期には翌年使う苗の準備も始まっている。
一般的ないちごは種からではなく、親株から伸びるランナーを使って増やす。
農研機構によると、生産者は5〜8月ごろに翌作の苗を増殖・育苗している。
つまり春のいちご農家は、今年の実を収穫しながら、同時に来年の収穫に使う株を作り始めている。

5〜8月|ランナーから大量の苗を作る
収穫期が終わるころ、本格的な育苗期に入る。
親株から伸びてきたランナーの先には子株ができる。
その子株をポットなどへ受けて根を張らせ、秋に植える苗として育てる。
愛知県の試験では、とちおとめの親株から5月初旬ごろにランナーを出させることで、
第2・第3子株を効率よく確保する方法が検討されている。
苗の数も少なくない。
いちご栽培では10a当たり約7,000株の苗が必要になる。
しかも親株1株から取れる子苗は20〜40株程度なので、何百株もの親株や大量の子苗を管理することになる。
苗を作れば終わりではなく、水や肥料を与えながら健全に育て
、炭疽病などの病害を持ち込まないよう管理する必要もある。収穫期とは違った忙しさがある時期になる。
8〜9月|「花ができたか」を見ながら定植時期を決める
夏の終わりから秋にかけて、かなり重要になるのが花芽分化だ。
いちごの一季成り品種は、気温が下がり日が短くなってくると花芽を作る。
促成栽培では、この花芽ができた苗をハウスへ定植することで年内から収穫しやすくなる。
問題は、年によって暑さが違うことだ。
農研機構によると、近年は8月下旬〜9月下旬の高温によって自然条件での花芽分化が遅れ、
定植時期や早期収量が不安定になることが課題になっている。
そのため、早く収穫したい産地では「短日夜冷」などの処理を使う場合がある。
苗を日中だけ光に当て、夜は冷暗所へ入れるなど、短日・低温の環境を人為的に作って花芽分化を促す方法だ。
農研機構では、8月中旬から9月上旬ごろにこうした処理を行い、
花芽分化を確認して定植すれば、11月上〜中旬から収穫できるとしている。
いちごの収穫時期は、秋に植えれば自然に決まるのではなく、その前の苗の状態からすでに調整されている。
9月|約7,000株をハウスへ定植する
花芽分化した苗は、9月ごろに本圃へ定植する。
栃木県の例では9月上中旬が定植時期で、10a当たり約7,000株を植える。
土耕ならハウス内の畝へ、高設なら培地を入れたベッドへ一株ずつ植えていく。
以前の記事で土耕・高設・養液栽培の違いを見たが、
ここから先の水や肥料の与え方は栽培システムによってかなり変わる。
高設養液なら給液量や肥料濃度を調整し、土耕なら土壌の状態を見ながらかん水や施肥を行う。
植えた直後はまだ実がないが、この時点でその年の株数や配置がほぼ決まるため、栽培の土台になる作業だ。
10月|ハウスを本格的に冬仕様へ変える
定植から1カ月ほどたつと、株も大きくなってくる。
栃木県では10月になるとハウスへ屋根ビニールをかけ、株元にマルチを敷く。
10月下旬には最初の花が咲き始める。
ここからハウスの役割が大きくなる。
外の気温が下がっても株の生育を止めないよう、保温や必要に応じた暖房を使う。
農研機構では、一般的な促成栽培では10月下旬からハウス内の保温・加温を始めるとしている。
本来自然条件なら冬に生育が鈍るいちごを、ハウス内ではそのまま成長させることで、冬の収穫につなげていく。
10〜11月|花が咲いたらミツバチを入れる
花が咲き始めたら、受粉が必要になる。
現在の施設いちごではミツバチを利用する農家が多く、
栃木県でも10月下旬の開花に合わせてハウスへミツバチを放飼する。
ミツバチは花を回りながら多数の雌しべへ花粉を運ぶ。受粉が偏ると果実の一部が十分に膨らまず、
形が崩れる原因になるため、きれいな果実を作るうえでも重要な工程になる。
前の記事で調べたように、ミツバチは農家が一年中飼っているとは限らない。
養蜂家から必要な期間だけ借りる場合もあり、いちご栽培の裏側には養蜂家との分業もある。

11月|最初のいちごが収穫できる
開花して受粉が終わると、果実が少しずつ大きくなる。
栃木県の促成栽培では、年内なら開花からおよそ30日で果実が肥大・着色し、収穫できるようになる。
10月下旬に咲いた花なら、11月下旬から12月ごろには赤いいちごになる。
ここからようやくスーパーで見るいちごが出てくる。
ただ、収穫期に入ったからといって、それまでの株管理が終わるわけではない。
12〜5月|収穫しながら株を管理する
冬から春にかけては、いちご農家の中でも特に忙しい時期になる。
熟した果実を収穫し、傷や形を確認しながら選別し、パックへ詰めて出荷する。
栃木県では11月から5月までこの作業が続き、出荷開始後は毎日収穫・調製作業を行うとしている。
同時に株の管理も続く。
古くなった葉を取り除いたり、不要な花や果実を調整したり、病害虫を確認したりする。
果実へ日が当たりやすいよう葉や果房の位置を調整する「玉出し」を行う場合もある。
ハウスの温度、水、肥料も毎日同じにはできない。
天候や株の状態を見ながら調整する必要がある。
冬のいちご農家は「毎日収穫する人」というより、
収穫しながら次に咲く花や育っている果実まで同時に管理している。
収穫期は一度に全部実るわけではない
いちごの促成栽培が長期間収穫できるのは、花が一度に全部咲くわけではないからだ。
最初の頂果房が咲いたあとも、次の果房が順番に出てくる。
品種によって、この果房の出方にも違いがある。
例えば農研機構の「恋みのり」は連続出蕾性に優れ、収穫ピークが一時期に集中しにくいことが特徴とされている。
「いちごの品種の違い」というと味や大きさが注目されるが、農家にとっては、
いつ花が出るか、収穫がどれくらい分散するかもかなり重要な性質になる。
1〜3月も次の花と実を作り続けている
真冬になると外の気温はかなり低くなるが、ハウス内では収穫が続く。
この時期は暖房や保温によって株の生育を維持しながら、次の花房を出させ、受粉させ、果実を育てる。
収穫した果実の後ろでは、まだ花の状態のもの、小さな青い実、大きくなり始めた実、赤くなりかけた実が同時に存在している。
そのため一つのハウスの中で、開花・受粉・肥大・着色・収穫が同時進行する。
この状態が数カ月続くことになる。
4〜5月|収穫終盤と次作の育苗が重なる
春になると外気温も上がり、冬から続いてきた促成いちごは終盤に入る。
一方で、次年度用の親株からはランナーが伸び始める。
つまり春は、今年のいちごを収穫する作業と、翌年の苗を作る作業が重なる。
農研機構でも、従来型のいちご農家は本圃での栽培と並行して、
5〜8月に翌年用の苗を増殖・育苗しているとしている。
5月に最後のいちごを収穫したら長い休みに入るわけではない。
そのころには次の苗が育ち始めている。
収穫が終わったらハウスを片付ける
収穫終了後は、使い終わった株を撤去する。
土耕では次作に向けて土壌管理を行い、高設栽培では培地や給液設備などを点検する。
ハウス自体の補修や機械類の整備も、この時期に行いやすい。
病害虫を次作へ持ち越さないためにも、古い株や残さをそのまま放置せず、ハウス内を整理することが重要になる。
そして夏の育苗、秋の定植へ戻る。
いちご農家の1年は、収穫が終わったところで区切られるというより、そのまま次の作へ循環している。
品種によって年間スケジュールも少し変わる
今回紹介したのは、本州で一般的な一季成り品種を使った促成栽培の例だ。
地域や品種が変われば時期も変わる。
北海道や東北、高冷地で四季成り品種を使う夏秋いちごなら、夏から秋が主な収穫期になる。
また同じ促成栽培でも、花芽分化の早い品種・遅い品種、
連続的に花が出やすい品種などがあり、収穫開始時期や作業量も変わる。
だから「いちご農家の年間作業」といっても全国共通の一つの暦があるわけではない。
それでも、冬春の国産いちごの中心になっている促成栽培では、
苗づくりから収穫まで一年近いサイクルで作業が続いている。
調べて思ったこと
いちご農家の仕事というと、冬のハウスで赤くなったいちごを毎朝収穫する姿を想像していた。
実際には、そのいちごを収穫している時点ですでに次年度用の親株を管理し、
春から夏には何千株もの苗を作っている。
さらに秋には花芽ができる時期を見ながら定植し、開花すればミツバチを導入し、冬になると毎日の収穫が始まる。
特に印象に残ったのは、いちごが「収穫の数カ月だけで作られる作物ではない」ことだった。
12月にスーパーへ並ぶいちごも、作業をさかのぼれば春から夏の苗づくりにつながっている。
これまで苗、栽培方式、ミツバチなどを別々に調べてきたが、年間作業として並べると全部が一本につながった。
いちご農家にとっては、収穫が終わった時点がシーズン終了ではなく、そのころにはもう次のシーズンが始まっている。
出典
- 栃木県いちご研究所「いちご栽培の1年」
- 農研機構「種子繁殖型イチゴ『よつぼし』の栽培と育苗の省力化」
- 農研機構「イチゴのトレイ苗への短期間冷蔵処理による花芽分化誘導技術」
- 農研機構「イチゴ新品種『おいCベリー』を育成」
- 農研機構「イチゴ『とちおとめ』の親株をプランター植えするポット育苗の採苗法」
- 農研機構「恋みのり」
