スーパーや寿司店でマグロを見ると、本マグロ、メバチマグロ、キハダマグロなど、いろいろな名前が並んでいる。
私はこれまで、本マグロとクロマグロは別の種類だと思っていたし、
インドマグロはインド近海で獲れるマグロくらいの認識だった。
調べてみると、まず名前から少しややこしい。
本マグロはクロマグロの別名で、インドマグロはミナミマグロの別名。
日本で主に流通するマグロは、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガの5種類に整理できる。
さらに違うのは名前や味だけではない。
クロマグロやミナミマグロは年間の漁獲量がかなり限られ、国際的な資源管理の対象になっている
。一方、キハダは中西部太平洋だけでも年間70万tを超える規模で漁獲される。
今回は、マグロの種類ごとの味や旬だけでなく、実際にどこの海で獲れるのか、年間漁獲量はどれくらい違うのか、なぜ値段に大きな差が出るのかまで調べてみた。
日本でよく食べられるマグロは主に5種類
まず名前を整理すると分かりやすい。
| 種類 | よく使われる別名 | 味の特徴 | 価格の傾向 |
|---|---|---|---|
| クロマグロ | 本マグロ | 赤身のうま味が強く、脂も濃厚 | 最も高価になりやすい |
| ミナミマグロ | インドマグロ | 濃い赤身と甘みのある脂 | 高価 |
| メバチ | バチ | 赤身・酸味・脂のバランス | 中〜高 |
| キハダ | キハダマグロ | 脂が少なくあっさり | 比較的手頃 |
| ビンナガ | ビンチョウ・トンボ | 淡い色で柔らかく、脂が軽い | 比較的手頃 |
農林水産省では、クロマグロをマグロ類の中でも最高級、ミナミマグロをそれに次ぐ高級種としている。
メバチは赤身のうま味と酸味、脂の甘みのバランスが特徴で、キハダはあっさり。
ビンナガは刺身のビントロだけでなく、ツナ缶の原料としても使われる。
同じマグロという名前でも、食味も流通量もかなり違う。
本マグロとクロマグロは同じ魚
高級寿司店などでよく聞く本マグロは、正式な魚種名ではクロマグロという。
つまり、本マグロとクロマグロは別の魚ではない。
太平洋のクロマグロは、日本周辺から北太平洋を広く回遊する大型魚で、最大では体長3m、500kgほどまで成長する。日本南方から台湾東沖、日本海などに産卵場があり、日本沿岸ではひき縄や定置網、沖合ではまき網やはえ縄など複数の漁法で漁獲されている。
味は赤身のうま味が強く、トロには濃い脂が入る。
マグロの王様と呼ばれることが多いのも、この赤身と脂の両方を楽しめることが大きい。
インドマグロの正式名はミナミマグロ
インドマグロも少し紛らわしい。
正式な魚種名はミナミマグロで、インドだけに生息するマグロではない。
主に南半球の冷たい海を回遊し、オーストラリア南部、ニュージーランド周辺、南アフリカ沖などで漁獲される。
クロマグロよりやや小型だが、高級マグロとして扱われる。
焼津市ではミナミマグロを海の赤いダイヤと呼び、赤身は濃厚で、トロは甘みのある脂が特徴としている。
インドマグロという名前から暖かい海の魚を想像していたが、実際には南半球の低水温海域で暮らす魚だった。
メバチはスーパーや寿司店で身近なマグロ
メバチは、目が大きいことからその名前が付いたマグロだ。
赤道を挟んだ熱帯から温帯の海域に広く分布し、太平洋だけでなく大西洋やインド洋でも漁獲される。
クロマグロほど脂が強い魚ではないが、赤身の味が濃く、ほどよく脂も入る。
そのため刺身や寿司で使いやすく、農林水産省もスーパーや回転寿司でよく見かけるマグロとして紹介している。
三崎漁港では特にメバチの取扱いが多い。
三浦市によると、三崎で扱う冷凍マグロは40kgを超えるメバチが中心で、多い日には約1,000本を取り扱う。
漁獲した魚を船内でマイナス60℃まで急速冷凍し、そのまま低温で流通させる仕組みも整っている。
キハダは漁獲量が桁違いに多い
キハダは、黄色味を帯びた体やひれが名前の由来になっている。
熱帯・亜熱帯の暖かい海を広く回遊し、はえ縄、まき網、竿釣りなどで漁獲される。
味はクロマグロやミナミマグロに比べて脂が少なく、あっさりしている。
刺身だけでなく、缶詰や加工品にも使われる。
そして、ほかのマグロと比べて圧倒的に違うのが漁獲量だ。
水産研究・教育機構によると、中西部太平洋だけでも2024年のキハダ漁獲量は約74万1,000tだった。
同じ年の太平洋クロマグロの世界漁獲量が約1万8,000tなので、同じ海域範囲ではないとはいえ、流通規模がまったく違うことは分かる。
キハダが比較的手頃な価格で流通しやすい背景には、この供給量の大きさもある。
ビンナガはビントロやツナ缶で身近
ビンナガは、長い胸びれが特徴の比較的小型のマグロだ。
ビンチョウマグロやトンボとも呼ばれ、脂が乗ったものはビントロとして刺身や寿司で使われる。
一方で、ツナ缶の原料としても重要な魚種だ。
北太平洋では、日本、米国、台湾などが漁獲している。
2024年の北太平洋全体の漁獲量は5万2,437tで、そのうち日本は3万2,616tだった。
日本だけで6割以上を占めている。
クロマグロのような高級魚としてのイメージは弱いが、日本にとってはかなり身近なマグロの一つだ。
漁獲量を見るとクロマグロの少なさが分かる

魚種別の漁獲量は海域ごとに国際機関が管理しているため、最新値を単純に一つの世界ランキングへ並べるのは難しい。
ただ、代表的な海域の最新値を見るだけでも規模の差はかなり大きい。
| 魚種 | 対象海域 | 最近の年間漁獲量 |
|---|---|---|
| クロマグロ | 太平洋全体 | 約1.8万t |
| ミナミマグロ | 全分布域 | 最近5年間で約1.6〜1.8万t |
| メバチ | 中西部太平洋 | 約15.2万t |
| キハダ | 中西部太平洋 | 約74.1万t |
| ビンナガ | 北太平洋 | 約5.2万t |
クロマグロとミナミマグロは1万t台なのに対し、キハダは一つの海域だけで70万tを超える。
この数字を見て、同じマグロでも流通量がまったく違うことに驚いた。
なお、表は海域の範囲が異なるため、単純な世界漁獲量ランキングではない。
魚種ごとの流通規模を把握する目安として見た方がいい。
クロマグロはなぜ厳しく漁獲量を管理されている?
クロマグロは現在、好きなだけ獲れる魚ではない。
太平洋クロマグロは過去に資源量が大きく減少し、2015年以降、国際的に厳しい漁獲管理が行われてきた。
日本でも30kg未満の小型魚と30kg以上の大型魚を分けて漁獲枠を設定し、沿岸漁業では都道府県ごとに数量を管理している。
2026年時点の日本の漁獲枠は、小型魚4,407t、大型魚8,421tとなっている。
ただし、現在も資源が減り続けているという理解は正しくない。
各国の漁獲規制によって資源は大きく回復し、最新の評価では太平洋クロマグロは乱獲状態でも、過剰漁獲が進んでいる状態でもないとされている。
そのため近年は漁獲枠も一部拡大された。
漁獲量が厳しく管理されていることと、現在の資源状態が悪いことは同じではない。
資源が回復してきたからこそ、再び減らさないよう管理しながら利用している。
ミナミマグロも年間2万tほどに管理されている
ミナミマグロも国際的な資源管理の対象だ。
2024〜2026年漁期の総漁獲可能量は毎年2万647tで、日本への割当量は7,247tに設定されている。
最近5年間の世界漁獲量も、おおむね1万6,000〜1万8,000t程度だ。
こちらも過去には資源が大きく減ったが、現在は回復傾向にある。
ただし、資源回復目標を設定しながら漁獲量を管理している状況は続いている。
クロマグロとミナミマグロが高価なのは味だけではなく、そもそも年間に流通できる天然魚の量が限定されていることも大きい。
マグロはどこの海で獲れている?

マグロについて少し混乱しやすいのが、産地だ。
大間マグロ、三崎マグロ、焼津ミナミマグロなど地域名の付いたマグロがあるため、その港のすぐ近くで獲れた魚だと思いがちだ。
実際には、魚種によって漁場は世界中に広がっている。
・クロマグロ:日本近海や北太平洋
・ミナミマグロ:オーストラリアやニュージーランド、南アフリカ周辺の南半球
・メバチ/キハダ:太平洋・インド洋・大西洋の熱帯から温帯海域
・ビンナガ:太平洋など広い範囲を回遊
だから、マグロを見るときはどこで獲れたかという漁場と、どこへ水揚げされたかという港を分けて考える必要がある。
大間・焼津・清水・三崎はそれぞれ役割が違う

国内でマグロの名前と結びつきやすい港も、それぞれ特徴が違う。
・大間は、津軽海峡など周辺海域で漁獲される天然クロマグロのブランドで知られている。
・焼津は遠洋漁業との結びつきが強く、南半球で日本船が漁獲したミナミマグロの水揚げ地として有名だ。
・清水港は冷凍マグロの大規模な水揚げ拠点で、静岡市は冷凍マグロ水揚量日本一として紹介している。
・三崎も遠洋マグロの重要な流通基地で、特に大型の冷凍メバチを多く取り扱う。
同じマグロの町でも、産地ブランドなのか、遠洋漁業の水揚げ基地なのかで性格がかなり違う。
マグロの値段は種類で大きく違う
値段も魚種によってかなり差がある。
基本的には、クロマグロが最も高価になりやすく、ミナミマグロがそれに続く。
メバチはその中間、キハダとビンナガは比較的手頃な価格で流通することが多い。
ただ、マグロは魚種だけで値段が決まるわけではない。
天然か養殖か、生か冷凍か、サイズ、脂の乗り、部位、産地、季節によって価格は大きく変わる。
例えば豊洲市場の2026年3月第2週では、生マグロの卸売価格は1kgあたり高値1万6,200円、中値5,440円、安値2,160円だった。
一方、冷凍メバチの中値は1kgあたり1,477円だった。
同じマグロでも、市場では数倍の価格差が出ている。
ただし、この数字も部位別の小売価格ではなく、市場で丸魚などを取引したときの卸値なので、スーパーの刺身価格とそのまま比較はできない。
初競りの数百万円は普通の価格ではない
本マグロの価格で特に有名なのが、豊洲市場の初競りだ。
毎年、大間産などのクロマグロが非常に高い価格で落札され、ニュースになる。
ただし、これは通常の市場価格ではない。
新年最初の競りという宣伝効果も含んだご祝儀相場なので、
初競り価格をそのまま本マグロの値段として見るのは違う。
マグロの価格差を考えるなら、初競りよりも普段の卸売価格や小売価格を見る方が実態に近い。
一方で、高額な初競りが毎年ニュースになることで、本マグロや大間という名前が広く知られる効果はかなり大きい。
マグロの旬は種類だけでは決められない
マグロは一年中寿司店やスーパーに並んでいるため、旬が分かりにくい魚でもある。
天然クロマグロでは、秋から冬にかけて北の海域で脂が乗った大型魚が評価されやすい。
大間のマグロも冬のイメージが強い。
一方、ミナミマグロは南半球の海で獲れるため、日本の季節だけで旬を考えることはできない。
メバチやキハダも分布域が非常に広く、漁場によって脂の乗りや漁獲時期が変わる。
そのため、マグロ全体の旬を冬と決めるより、魚種・海域・漁場ごとに旬が違うと考える方が正確だ。
さらに冷凍技術が発達した現在は、遠洋で獲ったマグロをマイナス60℃前後で保存して一年を通して流通させることもできる。
高級なマグロほど漁獲量が少ないのは偶然ではなかった
今回マグロを調べていて一番印象に残ったのは、価格と漁獲量の関係だった。
本マグロと呼ばれるクロマグロは、太平洋全体でも年間漁獲量が2万tに届かない。
一方、キハダは中西部太平洋だけで年間70万tを超える。
ミナミマグロも年間2万t程度のTACで管理されている。
もちろん、高い理由は漁獲量だけではない。
クロマグロやミナミマグロには、赤身のうま味とトロの脂という、高級寿司で評価されやすい味の特徴がある。
ただ、その魚を大量に獲ることもできない。
資源を守るため国際的に漁獲枠を決め、その限られた魚を世界で分け合っている。
同じマグロでも、年間数十万t獲れる魚と、2万t前後しか漁獲されない魚では、値段に差が出るのも自然だった。
調べて思ったこと
これまでマグロは、本マグロが高級で、スーパーにはメバチやキハダが多いくらいの認識だった。
実際に調べてみると、その違いは味だけではなかった。
クロマグロは本マグロと同じ魚で、インドマグロはミナミマグロ。
クロマグロは日本近海を含む北太平洋、ミナミマグロは南半球の冷たい海、キハダやメバチはもっと広い熱帯・温帯海域を回遊している。
漁獲量も大きく違う。
キハダは非常に大量に漁獲される一方、クロマグロやミナミマグロは国際的な漁獲枠の中で厳しく管理されている。
さらに、大間、焼津、清水、三崎という有名なマグロの町も、全部同じ意味の産地ではなかった。
大間のように近海で獲れるマグロそのものがブランドになった場所もあれば、
焼津や清水、三崎のように、世界の海で獲ったマグロが集まる水揚げ・流通拠点もある。
スーパーで切り身を見るだけでは分からないが、1切れのマグロの後ろには、
世界中の漁場と漁獲枠、遠洋漁業、冷凍技術、港の役割までつながっていた。
次は、その中でも特に名前の強い大間のマグロが、なぜ全国ブランドになったのかを詳しく調べてみたい。
出典
農林水産省「楽しく食べる!魚好き集まれ!」
農林水産省 東北農政局「マグロ」
水産庁・水産研究・教育機構「令和7年度 国際漁業資源の現況」
水産庁「太平洋クロマグロの漁獲状況について」
焼津市「海の赤いダイヤ 焼津ミナミマグロ」
焼津市「焼津で水揚げされる主な魚」
静岡市「清水港マグロまつり」
三浦市「三崎マグロ」
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