日本のいちごを調べていると、とちあいか、あまおう、あまりん、いちごさん、ゆうべになど、
都道府県ごとに違う名前が出てくる。
ぶどうにもクイーンルージュや神紅のように、その地域でしか栽培できない品種があった。
では、いちごも同じなのだろうか。
調べてみると、「県が作ったオリジナル品種」と「本当に県外で栽培できない品種」は同じ意味ではなかった。
福岡県のあまおうのように県内の生産者に栽培を限定してブランドを作っているものもあれば、
県が育成した品種でも県外へ広がっているものがある。
今回は、日本各地の代表的ないちごについて、どこで作られているのか、なぜ地域を限定するのか、
さらにどんな品種を親にして生まれたのかまで調べた。
「県オリジナルいちご」と「県限定いちご」は同じではない

最初に整理しておきたいのが、「県育成品種」と「県限定品種」の違いだ。
各都道府県の農業試験場では、新しいいちご品種が数多く開発されている。
そのため、
「栃木県が育成したから栃木県限定」
「静岡県生まれだから静岡県でしか作れない」
とは限らない。
例えば紅ほっぺは静岡県育成だが、全国へ広がり、2021年の調査では27都道府県で栽培されていた。
一方、福岡県のあまおうのように、県内の生産者による栽培を基本として産地ブランドを形成している品種もある。
地域限定かどうかを見る場合は、
- どこで育成されたか
- 育成者権を誰が持っているか
- 苗や種苗を誰に供給しているか
- 栽培地域を制限しているか
- 現在実際にどこで栽培されているか
を分けて見る必要がある。
福岡県|あまおうは福岡を代表する地域ブランド
地域との結びつきが特に強いいちごが「あまおう」だ。
品種名は「福岡S6号」。
福岡県農業総合試験場が、とよのかに代わる県の主力品種として育成した。
「あまおう」という名前は、
あかい
まるい
おおきい
うまい
の頭文字から付けられたブランド名で、品種名そのものではない。
2000年代から本格的に普及し、現在では福岡県を代表するいちごになっている。
あまおうの特徴は果実が大きく、丸みがあり、赤色が濃いこと。
かつて福岡県で主力だった「とよのか」は、冬季の着色や果実の大きさに課題があった。
その弱点を改善し、福岡県の次の主力品種として開発されたのが福岡S6号だった。
現在、あまおうは福岡県内の生産者を中心に生産され、県外で自由に栽培される品種ではない。
県全体で品種とブランドをセットにして守ってきた代表例になる。
埼玉県|あまりんは県育成の高糖度いちご
近年、特に注目されている地域ブランドが埼玉県の「あまりん」だ。
埼玉県農業技術研究センターが育成し、2016年に品種登録された。
系譜は、
やよいひめ
×
ふくはる香
↓
あまりん
となる。
果実は赤色が濃く、糖度が高く酸味が少ないことが特徴だ。
埼玉県の品評会でも高い評価を得ることが多く、
観光農園や直売を中心に県ブランドとして急速に知名度を上げている。
埼玉県では育成者権を利用し、生産者や苗の管理を行いながらブランド化を進めている。
同じ埼玉県育成品種には「かおりん」もあり、
ふくあや香
×
ゆめのか
↓
かおりん
という別の系譜を持つ。
「あまりん=甘さ」「かおりん=香り」というように、特徴の異なる2品種を県ブランドとして展開している。
栃木県|とちあいかは県内主力へ急速に転換
栃木県の現在の主力品種が「とちあいか」だ。
品種登録名は「栃木i37号」。
栃木県農業試験場いちご研究所が育成し、2024年に品種登録された。
果実は大きく、酸味が少なく甘みを感じやすい。
さらに、縦に切ると果実内部の空洞がハート形に見えることから、一般公募で「とちあいか」と名付けられた。
栃木県では、それまで主力だったとちおとめから、とちあいかへの転換を急速に進めている。
2025年産では県内いちご作付面積の約8割を占めるまで増えている。
ただし、「栃木県育成品種=永久に栃木県だけで栽培できる」と単純には言えない。
とちおとめも栃木県で育成された品種だが、その後は全国へ広がり、
2021年には全国いちご作付面積の約24%を占めていた。
県育成品種が将来どこまで広がるかは、育成者権の利用条件や県の産地戦略によって変わる。
佐賀県|いちごさんは「さがほのか」の後継として誕生
佐賀県の「いちごさん」も、県が主力品種を入れ替えるために開発した品種だ。
佐賀県では長く「さがほのか」が主力だった。
しかし、産地競争が激しくなるなかで、新しいブランド品種の開発を開始した。
2010年から開発を始め、
約15,000株
↓
約1,500株
↓
約50株
↓
最終1系統
と何段階もの選抜を行い、約7年かけて新品種を育成した。
2018年に「佐賀i9号」として品種登録され、ブランド名が「いちごさん」となった。
果実は大きく、形が整いやすく、赤色が濃い。
佐賀県では県内の主力品種として普及を進め、さがほのかからいちごさんへの転換が行われている。
単に新しいいちごを一つ増やしたのではなく、
佐賀県のいちご産地そのものを次の世代へ移すために作られた品種になる。
熊本県|ゆうべにも県の主力へ
熊本県では「ゆうべに」が主力品種になっている。
熊本県が約9年をかけて育成し、2015年から本格的に出荷が始まった。
名前は、
熊本の「熊(ゆう)」
+
いちごの紅色「べに」
などから「ゆうべに」と名付けられた。
果実は大きく、きれいな円錐形になりやすい。
甘みと酸味のバランスが良く、果肉が比較的硬いため輸送にも向いている。
2024年には熊本県内いちご栽培面積の約62%を占めるまで拡大した。
熊本でも、昔から同じ品種を作り続けているわけではない。
県が新品種を作り、それを生産者へ広げることで産地全体の品種構成を変えている。
静岡県|紅ほっぺは県外へ広がった代表例
地域限定品種との違いを理解するうえで、紅ほっぺは分かりやすい。
紅ほっぺは静岡県が、
章姫
×
さちのか
↓
紅ほっぺ
として育成し、2002年に品種登録した。
大粒で果肉の内部まで赤く、甘味と酸味の両方がある。
静岡県オリジナル品種として誕生したが、その後は全国に広がった。
2021年の栃木県いちご研究所の調査では、27都道府県で栽培されていた。
つまり、
静岡県生まれ
≠
静岡県限定
ということになる。
「あまおう」などの地域ブランドとは、品種の広げ方がまったく違う。
品種の系譜を見ると県をまたいでつながっている
いちごも、ぶどうと同じように品種の系譜を追うと面白い。
県ごとにまったく別々の品種を作っているように見えるが、親品種をたどると県境を越えてつながっている。
例えば、
章姫 × さちのか
→ 紅ほっぺ
埼玉のあまりんは、
やよいひめ × ふくはる香
→ あまりん
となる。
新しい県オリジナル品種も、過去に全国で評価された品種を親として利用しながら作られている。
各県がゼロからまったく新しいいちごを作っているわけではない。
大粒、甘さ、香り、果実の硬さ、収量など、既存品種の良い特徴を組み合わせながら次の品種を作っている。
なぜいちごは地域限定品種が多い?

いちごで県オリジナル品種が多い理由の一つが、地域ブランドを作りやすいことだ。
いちごは消費者が品種名を意識して買う果物の一つでもある。
スーパーでも、
あまおう
とちあいか
紅ほっぺ
いちごさん
のように品種・ブランド名が大きく表示される。
そのため県独自の品種を作ることが、産地そのものの知名度につながる。
さらに生産現場では、下記は重要になる。
- 収量
- 年内収量
- 病害への強さ
- 果実の硬さ
- 大きさ
- 形
- 色
- 輸送性
新品種を作ることで、味だけでなく、その地域の栽培条件や販売方法に合わせた改良もできる。
県が長期間かけて育成した品種を一定期間地域内で管理することは、
開発した県にとって産地競争力を高める手段にもなる。
「県限定」はずっと続くとは限らない
ここもぶどうと同じで注意したい。
現在その県を中心に作られている品種が、将来もずっと県内だけで栽培されるとは限らない。
植物の新品種には育成者権があるが、権利には期間がある。
さらに県がどのような利用許諾方針を採るかによって、県外栽培を認める場合もある。
とちおとめや紅ほっぺのように、県育成から全国品種へ広がった例もある。
反対に、あまおうのように県ブランドとして地域との結びつきを強く維持しているものもある。
「どこで生まれたか」と「現在どこで作れるか」は別に確認する必要がある。
地域限定いちごは品種だけではなく産地戦略だった

地域限定のいちごを並べてみると、単に各県が珍しいいちごを作っているわけではないことが分かる。
・福岡:とよのか→あまおう
・栃木:女峰→とちおとめ→とちあいか
・佐賀:さがほのか→いちごさん
・熊本:従来品種→ゆうべに
という主力品種の転換が起きている。
新品種は、既存品種の欠点を改善すると同時に、その県の次のブランドを作る役割も持っている。
日本のいちご売り場に県名と結びついた品種が多いのは、
各県が新品種開発と産地ブランド化をセットで進めてきた結果でもある。
調べて思ったこと
県オリジナルいちごについて調べる前は、県が作った品種なら基本的にその県でしか作れないものだと思っていた。
しかし実際には、紅ほっぺやとちおとめのように全国へ広がった品種もある。
一方、あまおうのように福岡県との結びつきを強く保ちながらブランド化している品種もある。
さらに面白かったのは、地域限定品種が単なる観光商品ではないことだった。
栃木ではとちおとめからとちあいか、佐賀ではさがほのかからいちごさんへ、
実際に県内の畑そのものが新しい品種へ置き換わっている。
スーパーではブランド名として見えているが、その裏では県が何年もかけて新品種を作り、
生産者と一緒に産地の主力を入れ替えていた。
いちごの品種名を見るときも、「どこの県のブランドか」だけでなく、
なぜその品種が作られたのかを見るとかなり印象が変わりそうだ。
出典
- 農林水産省「品種登録データベース」
- 九州農政局「九州のいちごカタログ」
- 栃木県「とちあいか」
- 栃木県いちご研究所「全国のイチゴ品種別作付面積」
- 埼玉県「あまりん・かおりん」
- 佐賀県農業試験研究センター「いちごさん」
- 熊本県「ゆうべに」
- 静岡県「紅ほっぺ」
