赤いぶどうというと、昔からスーパーでよく見るデラウェアを思い浮かべる。
ただ最近は、クイーンニーナや安芸クイーンのような大粒の赤ぶどうも増えてきた。
山梨では甲斐路が作られ、さらにシャインマスカットを親に持つ「サンシャインレッド」という新しい赤ぶどうまで登場している。
同じ赤色でも、デラウェアのような小粒品種とクイーンニーナのような大粒品種では、見た目も食感もかなり違う。
さらに系譜を調べると、安芸クイーンは巨峰から生まれ、その安芸クイーンからクイーンニーナが作られていた。
今回は、日本で作られている代表的な赤ぶどうについて、粒の大きさや味、食感、価格の傾向を比較しながら、
品種がどのようにつながっているのかまで調べた。
赤ぶどうにはどんな種類がある?
赤ぶどうといっても、果皮の色は赤褐色、鮮紅色、赤紫色など品種によってかなり違う。
さらに、気温など栽培環境によっても着色は変わる。
安芸クイーンのように暖かい地域では赤くなりにくく、逆に寒い地域では紫色が強くなる品種もある。
代表的な赤系ぶどうを比べると、かなり性格が違う。
| 品種 | 粒 | 味・食感 | 種・皮 | 主な特徴 | 価格傾向 |
|---|---|---|---|---|---|
| デラウェア | 小粒 | 甘みが強く果汁が多い | 種なし栽培が一般的 | 昔からの定番 | 比較的手頃 |
| 安芸クイーン | 大粒 | 甘みが強く巨峰に近い風味 | 種なし栽培可 | 鮮やかな赤色 | 中〜高 |
| クイーンニーナ | 極大粒 | 高糖度・硬めの果肉 | 種なし栽培 | 大粒で甘みが非常に強い | 高め |
| 甲斐路 | 大粒 | 高糖度で上品な甘み | 種ありも多い | 山梨を代表する晩生品種 | 中〜高 |
| サンシャインレッド | 大粒 | 糖度約19%、華やかな香り | 種なし・皮ごと | シャインマスカットを親に持つ | 高め・流通少 |
同じ赤ぶどうでも、「昔ながらの小粒ぶどう」と「近年の大粒高級ぶどう」が一緒に存在している。
この違いは、日本のぶどう品種がどう変わってきたかを見るうえでも分かりやすい。
デラウェアは昔の日本を代表するぶどうだった
赤ぶどうの中で最も歴史的な存在感が大きいのがデラウェアだ。
小粒の赤褐色のぶどうで、日本ではジベレリン処理による種なし栽培が広く普及している。
現在でも山形県、山梨県、大阪府などで栽培され、夏の早い時期から出回る。
特に重要なのが、かつて日本のぶどう栽培の中心だったことだ。
前の記事で見たように、1989年には国内の品種別栽培面積の38.7%をデラウェアが占めていた。
つまり、30年ほど前の日本では、ぶどうといえば現在のシャインマスカットや巨峰より、
デラウェアの存在感の方がはるかに大きかった。
小粒ではあるが甘みが強く、一口で食べられる。
早い時期から収穫できることも特徴になる。
現在の大粒ぶどうとは方向性がかなり違うが、
日本で「種なしぶどうを食べる」という文化を広げた代表的な品種ともいえる。
安芸クイーンは「赤い巨峰」を目指して生まれた?
現在の大粒赤ぶどうの系譜を見るうえで重要なのが安芸クイーンだ。
安芸クイーンは農研機構の前身である果樹試験場で育成され、1993年に品種登録された。
その交配組み合わせを見ると少し変わっている。
巨峰
×
巨峰
↓
安芸クイーン
安芸クイーンは、巨峰を自家受粉させて得られた実生から選抜された品種だった。
そのため粒の大きさや味には巨峰の特徴が強く残っている。
農研機構によると、果粒は巨峰と同程度の大きさで、果房は400〜500g程度。
甘みも強く、糖度・酸度は巨峰と同程度とされている。
大きく違うのが色だ。
巨峰が紫黒色なのに対して、安芸クイーンは鮮やかな赤色になる。
つまり系譜だけ見ると、黒ぶどうの記事で扱った巨峰と、赤ぶどうの記事で扱う安芸クイーンはかなり近い。
色別に売り場を見ると別のグループに見えるが、品種改良の系譜では黒ぶどうと赤ぶどうがつながっている。
クイーンニーナは安芸クイーンの子ども
安芸クイーンからさらに育成されたのがクイーンニーナだ。
農研機構では1992年、
安芸津20号
×
安芸クイーン
↓
クイーンニーナ
という組み合わせで交配を行った。
その後、全国で試験栽培され、2011年に品種登録された。
名前の「クイーン」も偶然ではない。
農研機構によると、安芸クイーンの子であることと、
試験時の系統名「安芸津27号」の27を「ニーナ」の響きに当てて、クイーンニーナと命名された。
クイーンニーナの特徴は、かなり大きな粒と高い糖度だ。
農研機構が全国で行った試験では、下記の表の通りになっている。
| 品種 | 1粒の重さ | 糖度 | 酸度 |
|---|---|---|---|
| クイーンニーナ | 14.7g | 20.6% | 0.40g/100ml |
| 巨峰 | 11.3g | 18.5% | 0.53g/100ml |
| ピオーネ | 12.6g | 18.2% | 0.49g/100ml |
試験値なので、実際の果実が必ずこの糖度になるわけではない。
それでも、巨峰やピオーネより大粒で糖度が高く、酸味が少ない傾向があることが分かる。
果肉も巨峰より硬く、噛み切りやすい。
最近のぶどうに求められている「大粒・高糖度・硬めの食感」という特徴がかなり強く出ている品種だ。
巨峰からクイーンニーナまで系譜がつながっている

ここまでの系譜を整理すると面白い。
まず黒ぶどうの巨峰がある。
巨峰
↓
安芸クイーン
↓
クイーンニーナ
という流れで赤い大粒ぶどうへつながっている。
ただしクイーンニーナは安芸クイーンだけから作られたわけではなく、もう一方の親は安芸津20号だ。
この安芸津20号にも別の品種改良の歴史がある。
つまり新品種は、色や甘さだけを一度の交配で変えているわけではない。
良い特徴を持つ系統を何世代も掛け合わせながら、
・大粒
・高糖度
・硬い果肉
・赤い果皮
・種なし栽培への適性
といった性質を組み合わせている。
スーパーで見ると巨峰とクイーンニーナは黒と赤でまったく違うぶどうに見えるが、実際にはかなり近い系譜にある。
甲斐路は山梨を代表する赤ぶどう
赤ぶどうには、巨峰系とは違った系譜を持つ品種もある。
その代表が甲斐路だ。
甲斐路は山梨県の育種家によって育成された赤色の晩生品種で、
山梨県では9月上旬から10月中旬ごろが収穫時期とされている。
鮮やかな赤色で糖度が高く、比較的遅い時期まで楽しめる。
デラウェアが夏の早い時期から出回るのに対し、甲斐路は秋まで収穫されるため、
同じ赤ぶどうでもシーズンがかなり違う。
甲斐路からは「赤嶺」という枝変わりも見つかっており、山梨県では早生甲斐路として栽培されている。
新品種は必ずしも交配だけから生まれるわけではなく、一本の樹から性質の違う枝が現れ、
その特徴を固定した「枝変わり」から新しい系統が作られることもある。
デラウェアにも枝変わりがたくさんある
枝変わりという点では、デラウェアも面白い。
農林水産省の品種登録データを見ると、
- 浦部デラウエア
- 紅南陽
- クイーンデラ
- ハニー・ルージュ
- デラウェア美芳
など、デラウェアの枝変わりとして登録された品種が複数ある。
例えば「デラウェア美芳」は大阪府羽曳野市で見つかった枝変わりで、通常のデラウェアより早く、育成地では6月上旬に成熟する早生品種として登録された。
同じデラウェアでも、畑の中で現れた突然変異を選抜することで収穫時期などを変えた品種が作られてきた。
交配によって新しい特徴を組み合わせる方法と、枝変わりを選抜する方法。
ぶどうの品種が増えるルートは一つではない。
シャインマスカットから赤ぶどうも生まれている
最近の赤ぶどうで特に面白いのが、山梨県が育成した「サンシャインレッド」だ。
品種登録名は「甲斐ベリー7」。
系譜は、
サニードルチェ
×
シャインマスカット
↓
サンシャインレッド
となっている。
つまり、黄緑ぶどうの記事で中心だったシャインマスカットが、今度は赤ぶどうの親として登場する。
山梨県によると、サンシャインレッドは種なし栽培で1房550〜650g程度、糖度19%程度。
華やかな香りがあり、皮ごと食べられる赤色の大粒ぶどうになる。
2022年に品種登録された比較的新しい品種で、現在は流通量もまだ限られている。
ただ、これまでシャインマスカットが持っていた、
・大粒
・種なし
・皮ごと
・硬めの食感
といった特徴を、赤色のぶどうにも取り入れようとしていることが分かる。
黄緑系と赤系を分けて見ていたが、育種の世界ではすでに両方がつながっている。
赤ぶどうは着色が難しい
赤ぶどうを調べると、味だけではなく「きれいに赤くすること」が重要な課題になっている。
例えば安芸クイーンは、本来は鮮やかな赤色になる品種だ。
しかし農研機構によると、暖地では着色しにくく、寒冷地では逆に紫色が強くなる場合がある。
クイーンニーナも赤色の大粒品種だが、高温条件では着色が課題になる。
ぶどうの赤や黒の色は、果皮に蓄積するアントシアニンによるものだが、
高温になると着色が進みにくくなることがある。
黄緑色のシャインマスカットには、そもそも果皮を赤や黒にする必要がない。
以前の記事で、シャインマスカットの栽培面積が急増していることを見たが、
赤系・黒系品種と比べると「着色」という栽培上の違いもある。
赤ぶどうは、甘く大粒にするだけでなく、商品としてきれいな赤色に仕上げることまで求められる。
赤ぶどうの価格はどれくらい?

ぶどうの価格は品種だけでなく、産地、収穫時期、房重、粒の大きさ、等級、贈答用か家庭用かで大きく変わる。
そのため「クイーンニーナは1房○円」と固定するのは難しい。
大まかな傾向で見ると、
| 品種 | 価格傾向 | 流通 |
|---|---|---|
| デラウェア | 比較的手頃 | 多い |
| 安芸クイーン | 中〜高 | やや少ない |
| クイーンニーナ | 高め | まだ限定的 |
| 甲斐路 | 中〜高 | 産地中心 |
| サンシャインレッド | 高め | まだ少ない |
デラウェアは生産量が多く、比較的購入しやすい。
2026年のJAタウンでは、
・山形県産デラウェア約2kgが3,980〜4,800円
・大阪・南河内産約1.4kgが3,500円
で販売されていた。
品評会出品商品では2kgで5,000〜8,000円の商品もあり、同じ品種でも等級によって価格差がかなり大きい。
一方、クイーンニーナやサンシャインレッドのような流通量の少ない大粒品種は、
直売所や贈答用で扱われることも多く、デラウェアより高価格帯になりやすい。
ただし価格は毎年変わるため、品種間の絶対的なランキングではなく、
流通量や希少性による傾向として見る方がいい。
デラウェアから大粒の赤ぶどうへ

赤ぶどうだけを見ても、日本のぶどうがどう変わってきたかが分かる。
昔から広く食べられてきたデラウェアは、
・小粒
・種なし
・食べやすい
という品種だった。
そこから安芸クイーンやクイーンニーナのような、
・大粒
・高糖度
・種なし栽培
・硬めの果肉
を持つ赤ぶどうが作られるようになった。
そして現在は、サンシャインレッドのように、
・大粒
・種なし
・高糖度
・皮ごと食べられる
というシャインマスカット型の特徴まで赤ぶどうに入ってきている。
単純化すると、赤ぶどうでも、
デラウェア
↓
安芸クイーン・クイーンニーナ
↓
サンシャインレッドなど
と、食べやすさと大粒化の方向へ品種が増えてきたように見える。
もちろん、古い品種が完全に新しい品種へ置き換わったわけではない。
デラウェアは現在も主要品種として残り、甲斐路のように長く作られてきた品種にも根強い需要がある。
新旧の品種が同時に売り場に並んでいるのが、現在の日本のぶどうの面白いところだ。
調べて思ったこと
赤ぶどうというと、最初はデラウェアとクイーンニーナくらいしか意識していなかった。
ところが系譜を見ると、黒ぶどうの記事で中心だった巨峰が、
安芸クイーンを通じてクイーンニーナにつながっていた。
さらに黄緑ぶどうの記事で扱ったシャインマスカットも、今度はサンシャインレッドの親として出てくる。
色別に整理すると黒・赤・黄緑は別々のグループに見えるが、品種改良の系譜ではかなり入り組んでつながっている。
一方で、デラウェアのように枝変わりから多くの系統が生まれている品種もある。
スーパーでは色と名前しか見ていなかったぶどうも、親子関係まで追っていくと、
なぜその特徴を持っているのかまで少し見えてくるようになった。
出典
- 農研機構「育成品種紹介 安芸クイーン」
- 農研機構「大粒で食味が優れ果皮色の赤いブドウ新品種 クイーンニーナ」
- 農研機構「農研機構技報 No.10 クイーンニーナ」
- 農林水産省「品種登録データベース」
- 山梨県「ぶどう」
- 山梨県果樹試験場「登録品種情報 生食用ブドウ」
- JAタウン「ぶどう」

