日本で作られているぶどうを調べていると、全国で栽培されているシャインマスカットや巨峰とは別に、
「長野県限定」「島根県でしか作れない」と紹介される品種が出てくる。
例えば長野県のクイーンルージュ、島根県の神紅、山梨県のサンシャインレッドなどだ。
名前に地域名が付いているだけなのかと思ったが、調べてみると、実際に県が苗木や育成者権を管理し、
県外への流出を防いでいる品種もあった。
一方で、大阪の虹の雫や埼玉・秩父のちちぶ山ルビーのように、現在その地域だけで栽培されているものの、
制度上の意味は少し違う品種もある。
今回は、日本各地の地域限定・地域オリジナルぶどうについて、どこで作られているのか、
なぜ地域を限定するのか、さらにどんな品種を親にして生まれたのかまで調べた。
地域限定のぶどうには2つのタイプがある

「地域限定品種」といっても、すべて同じ仕組みではない。
調べてみると、大きく2つに分けた方が分かりやすかった。
一つは、県など育成者権を持つ側が利用条件を定め、県外での栽培そのものを制限している品種。
もう一つは、制度上の制限とは別に、苗木の供給や産地形成などの結果として、
現在ほぼその地域だけで栽培されている品種だ。
代表例を整理すると次のようになる。
| 地域 | 品種 | 系譜 | 色・特徴 | 地域限定の性格 |
|---|---|---|---|---|
| 長野県 | クイーンルージュ | ユニコーン×シャインマスカット | 赤・大粒・種なし・皮ごと | 県内限定、栽培契約が必要 |
| 山梨県 | サンシャインレッド | サニードルチェ×シャインマスカット | 赤・大粒・種なし・皮ごと | 県が県外流出を厳重管理 |
| 島根県 | 神紅 | ベニバラード×シャインマスカット | 赤・大粒・高糖度・皮ごと | 島根県内でのみ栽培 |
| 石川県 | ルビーロマン | 藤稔の実生から選抜 | 赤・超大粒・高級ブランド | 石川県が苗木・ブランドを厳格管理 |
| 大阪府 | 虹の雫 | 大阪府育成 | 黄緑~赤・香りが変化 | 現在大阪府内のみで栽培 |
| 埼玉県・秩父 | ちちぶ山ルビー | リザマート×ピアレス | 赤・細長い・皮ごと | 秩父地域の限られた農園のみ |
こうして見ると、赤系の大粒ぶどうがかなり多い。
さらに系譜を見ると、シャインマスカットを親に持つ地域限定品種が複数あることも分かる。
長野県|クイーンルージュは本当に県外では栽培できない
地域限定という意味が最も明確なのが、長野県のクイーンルージュだ。
品種登録名は「長果G11」。長野県果樹試験場が、
ユニコーン
×
シャインマスカット
↓
クイーンルージュ
として育成し、2019年に品種登録された。
長野県は現在、クイーンルージュについて「長野県内限定品種」と明記している。
県外への種苗流出を防ぎ、長野県オリジナル品種としてブランドを確立するため、
栽培には県との契約が必要。自家増殖も禁止されている。
つまり「長野で多く作られている」のではなく、現時点では長野県外の生産者は栽培できない。
果実は赤色で大粒。種なし栽培ができ、皮も比較的薄く、そのまま食べられる。
長野県では「ナガノパープル」「シャインマスカット」と並ぶ県産ぶどうとして育成を進めている。
系譜を見ると、その特徴も分かりやすい。
黄緑色で皮ごと食べられるシャインマスカットを親に使いながら、赤色の大粒ぶどうへ発展させた品種になっている。
山梨県|サンシャインレッドもシャインマスカットの子ども
山梨県のサンシャインレッドも、最近登場した地域オリジナルぶどうだ。
品種登録名は「甲斐ベリー7」。
系譜は、
サニードルチェ
×
シャインマスカット
↓
サンシャインレッド
となっている。
山梨県果樹試験場が約15年かけて開発し、2022年に品種登録された。
県によると、種なし栽培した果房は550~650g程度、糖度は19%程度で、華やかな香りがあり皮ごと食べられる。
この品種も県が流出管理をかなり厳しくしている。
山梨県は甲斐ベリー7について、生産者に誓約書の提出を求め、県外への流出を防ぐ方針を明記している。
県内への苗木供給を進めながら産地化している品種だ。
面白いのは、長野県のクイーンルージュと同じく、シャインマスカットを親に持つこと。
各県がシャインマスカットをそのまま作るだけでなく、
シャインマスカットの食べやすさ
+
赤色や香りなど別の特徴
を持つ次世代品種を育成していることが分かる。
島根県|神紅は島根でしか作れない赤ぶどう
島根県にも、県内でしか栽培できないぶどうがある。
「神紅(しんく)」だ。
島根県農業技術センターが、
ベニバラード
×
シャインマスカット
↓
神紅
として育成した。
島根県の就農支援サイトでも「島根県内でしか栽培できない希少な品種」と明記されている。
神紅は、
- 種なし
- 皮ごと食べられる
- 大粒
- 鮮やかな紅色
- 糖度20度以上
- 紅茶を思わせる香り
という特徴を持つ。
県の農業技術センターでは2000年代後半から育成を進め、2018年から県内で栽培が始まった。
ここでもシャインマスカットが親として登場する。
クイーンルージュ、サンシャインレッド、神紅。
3品種とも県が育成した赤系の地域ブランドぶどうで、さらに3品種すべての系譜にシャインマスカットが入っている。
全国的に成功した品種が、今度は各県のオリジナル品種を作る親として使われていることになる。
石川県|ルビーロマンは藤稔から生まれた超大粒ぶどう
石川県の地域ブランドぶどうとして有名なのがルビーロマンだ。
ルビーロマンは交配で特定の2品種を掛け合わせて作られたものではない。
1995年に石川県農林総合研究センターが、大粒ぶどう「藤稔」の種約400粒を播き、
その中から果実の大きさや色、味などが優れた個体を選抜した。
つまり系譜としては、
藤稔
↓
実生約400個体
↓
選抜
↓
ルビーロマン
という流れになる。
特徴はとにかく粒が大きいこと。
石川県によると、粒は巨峰の約2倍になることがあり、国内でも最大級。
果皮は鮮やかな赤色で、酸味が少なく果汁も多い。
石川県では生産者やJAと一体になって苗木管理や品質管理、ブランド化を進めている。
ただし、ここはクイーンルージュと同じ意味で「現在の制度上、県外では絶対に栽培できない」と
一括りにしない方がいい。
実際には過去に苗木が海外へ流出した問題も起きており、石川県は苗木の厳格な管理と知的財産保護を進めている。
ルビーロマンは、地域限定品種を守る難しさまで見える例でもある。
大阪府|虹の雫は現在大阪だけで栽培されている
大阪にもオリジナルぶどうがある。
「虹の雫」だ。
大阪府立環境農林水産総合研究所が長年開発を続け、2018年に品種登録された大阪府初のオリジナルぶどう。
大阪府は現在、「大阪府内でのみ栽培されている希少なぶどう」と紹介している。
ただし、クイーンルージュのように「県外での栽培を制度上禁止している」と今回確認できたわけではない。
そのため、
長野県限定のクイーンルージュ
と
現在大阪府内のみで栽培されている虹の雫
は分けて考えたい。
虹の雫の特徴は、果皮の色が一つではないこと。
成熟の仕方によって黄緑色、黄色、赤色などさまざまな色になり、色によって香りの感じ方も変わる。
一般的なぶどうでは色が均一でないことが欠点になりやすいが、
その特徴を逆に「虹」という名前につなげているところも面白い。
大阪はデラウェアの産地として知られているが、現在はこうしたオリジナル品種の育成も行われている。
埼玉・秩父|ちちぶ山ルビーは県より狭い「地域限定」
さらに限定範囲が狭いぶどうもある。
埼玉県秩父地域の「ちちぶ山ルビー」だ。
埼玉県によると、
リザマート
×
ピアレス
↓
ちちぶ山ルビー
という交配から生まれた。
現在も秩父地域の限られた農園でしか栽培されておらず、市場にもほとんど流通しない。
粒は一般的なぶどうより細長い楕円形。
皮が薄く、種なしでそのままパリッと食べられ、爽やかな後味が特徴とされている。
2026年には、糖度19度以上・1房550g以上などの基準を満たす「プレミアムKIWAMI」という最高級規格も設定された。
地域限定というと県単位を想像するが、ちちぶ山ルビーは秩父というさらに狭い地域で産地を形成している例になる。
地域限定品種の系譜を見るとシャインマスカットが目立つ

今回調べた品種を、親品種から並べてみると特徴的な流れがある。
シャインマスカット
↓
クイーンルージュ(長野)
↓
サンシャインレッド(山梨)
↓
神紅(島根)
正確にはそれぞれ別の親との交配なので、シャインマスカットから一直線につながっているわけではない。
それぞれ、
ユニコーン × シャインマスカット
→ クイーンルージュ
サニードルチェ × シャインマスカット
→ サンシャインレッド
ベニバラード × シャインマスカット
→ 神紅
という別々の系譜になる。
それでも、各県が独自品種を開発するときにシャインマスカットを親として使っていることは共通している。
大粒、種なし栽培、皮ごとの食べやすさなど、現在の消費者に支持されている特徴を受け継ぎながら、
赤色や香りなど各産地独自の特徴を加えようとしていることが分かる。
一方、
藤稔 → ルビーロマン
リザマート × ピアレス → ちちぶ山ルビー
のように、シャインマスカットとは違う系譜から生まれた地域品種もある。
同じ「地域限定ぶどう」でも、目指している特徴や育種の出発点はかなり違う。
なぜわざわざ栽培地域を限定するのか

ここまで調べて一番気になったのが、なぜ県が新品種を作ったあと、
全国の農家に自由に作ってもらわないのかということだった。
理由の一つが、産地ブランドを作るためだ。
新しい品種の開発には長い時間がかかる。
クイーンルージュは約10年、サンシャインレッドは約15年、ルビーロマンは14年をかけて育成されている。
県が研究費と時間をかけて開発した品種がすぐ全国へ広がれば、その県ならではの商品にはなりにくい。
そこで育成者権を利用し、
- 苗木の供給先を管理する
- 自家増殖を制限する
- 県外への苗木流出を防ぐ
- 生産者を限定する
- 出荷規格を統一する
といった方法で産地を育てている。
単に「珍しいぶどうだから高く売る」のではなく、品種そのものを地域資源として管理しているわけだ。
地域名が付いていても地域限定とは限らない
ここで注意したいのが、地域名の入った品種=地域限定品種ではないことだ。
例えばナガノパープル。
名前だけを見ると長野県でしか作れないように感じるが、現在の長野県の利用条件では栽培地域は全国となっている。
長野県果樹試験場も、栽培適地を「全国のぶどう栽培地帯」とし、県内外で生産面積が拡大していると説明している。
逆に、クイーンルージュは長野という名前が入っていないのに、本当に長野県限定だ。
品種名だけでは判断できない。
「どこで生まれたか」
「現在どこで作られているか」
「制度上どこで栽培できるか」
は、それぞれ別の話として確認する必要がある。
調べて思ったこと
最初は「地域限定のぶどう」と聞いて、単にその地域で多く作られている珍しい品種くらいに考えていた。
ところが調べてみると、本当に県外での栽培を制限しているクイーンルージュのような品種もあれば、
現在はその地域だけで作られている虹の雫のような品種もあり、「限定」の意味は一つではなかった。
特に面白かったのは系譜だった。
長野のクイーンルージュ、山梨のサンシャインレッド、島根の神紅は別々の県が育成した品種なのに、
すべてシャインマスカットを親に持つ。
全国で人気になったシャインマスカットが、今度は各地域の新しいぶどうを生み出す親になっている。
これから各県の新品種が増えていけば、「シャインマスカットの次は何か」という話だけでなく、
その土地でしか作れないぶどうが増えていく可能性もありそうだ。
スーパーで全国共通の品種を見るのとは違い、その地域へ行かないと出会いにくい品種があるのも、
日本のぶどうの面白さだと思った。
出典
- 長野県農業試験場「長果G11(クイーンルージュ)の利用許諾について」
- 長野県果樹試験場「ぶどうの品種育成」
- 山梨県果樹試験場「登録品種情報 生食用ブドウ」
- 山梨県「サンシャインレッド」
- 島根県「果樹振興」
- しまね農Life「神紅」
- 石川県「石川県オリジナルぶどう品種 ルビーロマン」
- 大阪府「虹の雫とは」
- 埼玉県秩父農林振興センター「秩父限定の希少ぶどう ちちぶ山ルビー」


