スーパーでぶどうを見ると、デラウェア、巨峰、ピオーネ、シャインマスカットなど、
多くの商品に「種なし」と書かれている。
これだけ種なしぶどうが普通に並んでいると、最初から種のできない品種なのかと思ってしまう。
ところが調べてみると、巨峰やピオーネ、シャインマスカットには本来種ができる。
日本では花が咲く時期に「ジベレリン」という植物ホルモンを使うことで、種なしのぶどうを作っていた。
しかも、この技術は最初から種なしぶどうを作るために研究されたものではない。
デラウェアの別の問題を解決しようとしたところ、偶然種がなくなることが分かったという。
今回は、種なしぶどうをどうやって作っているのか、ジベレリン処理の仕組みや日本で広がった背景まで調べた。
種なしぶどうはジベレリン処理で作られている

ぶどうには基本的に種ができる。
現在スーパーで販売されている種なしぶどうの多くは、品種そのものに種ができないのではなく、
栽培中に種なしになるよう処理されている。
そこで使われるのが「ジベレリン」だ。
ジベレリンは植物の成長に関係する植物ホルモンの一種で、もともと植物自身も持っている。
ぶどうでは開花前後に、花の集まった房をジベレリン溶液へ浸す処理が行われる。
品種や栽培方法によって処理時期や濃度は異なるが、この処理によって種ができにくくなり、
種なしの果実として育てることができる。
つまり、
種なし品種を植える
↓
種なしぶどうができる
とは限らず、
種のある品種
↓
開花期にジベレリン処理
↓
種なし果実として育てる
というぶどうがかなり多い。
デラウェアの種なしは偶然見つかった
種なしぶどうの技術は日本で早くから研究されてきた。
農林水産省によると、そのきっかけになったのがデラウェアだった。
当時、山梨県の果樹試験場では、デラウェアの粒が密着して裂けてしまうのを防ぐため、
房の軸を伸ばす研究を行っていた。
そこで植物の成長を促すジベレリンを使用したところ、処理したぶどうに種ができなくなることが分かった。
最初から「種なしぶどうを作ろう」と始めた研究ではなかった。
別の栽培上の問題を解決しようとして使ったジベレリンに、種なし化する作用があることが見つかったわけだ。
現在ではデラウェア=種なしのイメージがかなり強いが、
デラウェア自体がもともと種のないぶどうというわけではない。
栽培技術によって、現在の食べやすいデラウェアが作られている。
ジベレリン処理はなぜ2回する?

ぶどう農家の作業を見ると、ジベレリン処理を2回行う品種が多い。
単純に種をなくすだけなら、なぜ2回必要なのか気になった。
実際には、それぞれの処理には少し違った役割がある。
一般的な大粒ぶどうでは、
・1回目:満開前後
→ 種なし化や着粒を促す
・2回目:満開から10~15日ほど後
→ 果粒を大きく育てる
という目的で処理されることが多い。
例えば農研機構のクイーンニーナでは、満開時と満開10~15日後にジベレリン処理することで、
平均17g程度の大粒で種なしの果実になる。
サンヴェルデでも2回の処理によって、平均14g程度の大粒種なし果になる。
つまりジベレリンは、「種をなくす薬」とだけ考えると少し違う。
種なし化だけでなく、果実を商品として十分な大きさまで育てるためにも利用されている。
巨峰やピオーネも本来は種がある
現在は巨峰やピオーネも種なしで販売されているものが多い。
しかし、どちらももともと種のある品種だ。
日本で巨峰など大粒ぶどうが普及したあと、消費者から種なしを求める声が強くなり、
大粒品種でも種なしにする栽培技術が研究されてきた。
農研機構も、巨峰でジベレリンを利用した種なし栽培法が確立されたあと、
ピオーネや藤稔など巨峰に近い大粒品種の種なし栽培が増えたと説明している。
ただし、デラウェアで使える方法をそのまま巨峰や藤稔に使えばうまくいくわけではなかった。
品種によってジベレリンへの反応が違うためだ。
東京農業大学では、藤稔の種なし化研究について、
ジベレリンの濃度や処理時期を変えても種が混入する問題があったことを紹介している。
その後、ストレプトマイシンなどを組み合わせる方法も研究され、
大粒品種でも安定して種なし果実を作る技術が発達してきた。
スーパーでは単に「種なし」と書かれているだけだが、その裏では品種ごとに処理方法が調整されている。
シャインマスカットも自然に必ず種なしになるわけではない
シャインマスカットも、最初から種ができない品種だと思っていた。
しかし、これも違う。
農研機構によると、シャインマスカットはジベレリン処理によって種なし栽培が可能になる品種だ。
つまり、
シャインマスカット=遺伝的に完全な種なし品種
ではない。
現在スーパーで種なしのシャインマスカットを普通に買えるのは、
品種の特徴に加えて、生産者が種なしにする栽培管理を行っているからだ。
これは巨峰、ピオーネ、クイーンニーナなどでも同じ。
「品種」と「種があるかどうか」は必ずしも一対一ではない。
ジベレリン処理をすると粒も大きくなる
ジベレリン処理にはもう一つ大きな効果がある。
果粒を大きくすることだ。
例えば農研機構が育成したクイーンニーナは、2回のジベレリン処理によって平均17g程度の大粒になる。
グロースクローネでも、満開時と満開10~15日後にジベレリン処理することで極大粒の種なし果実が得られる。
山梨県の試験でも、処理方法によって果粒重が変わることが確認されている。
現在の大粒ぶどうは、
品種そのものの大粒性
+
ジベレリンなどを使った栽培管理
+
摘粒による粒数調整
を組み合わせて、店頭で見るような大きな粒に仕上げられている。
単純に「大粒品種を植えれば、あの大きさになる」というわけではない。
種なしにするだけで房が完成するわけではない
ぶどう栽培を調べていると、ジベレリン処理だけでもかなり手間がかかる。
しかし、それだけでスーパーに並ぶきれいな房になるわけではない。
花が咲く前後には花穂の形を整え、その後は多すぎる粒を一つずつ減らす「摘粒」も行う。
農研機構によると、クイーンニーナや巨峰、ピオーネでもこうした花穂整形や摘粒が必要になる。
粒が多すぎると、一粒ずつに十分な養分が行き渡らず、粒が小さくなる。
山梨県の試験では、同じ品種でも房に残す粒数が増えるほど一粒の重さが小さくなる結果も出ている。
種なし・大粒のぶどうは、ジベレリンだけで自然に出来上がっているわけではなかった。
ジベレリンは危険ではない?
ジベレリンという名前を聞くと、人工的な薬品を果実につけているように感じるかもしれない。
ただし、ジベレリンそのものは植物が体内で作っている植物ホルモンの一種だ。
農林水産省も、ぶどうに利用されるジベレリンについて安全性が確認されていると説明している。
農業では登録された植物成長調整剤として、
作物、濃度、使用時期、回数など決められた使用方法に従って利用される。
また、ジベレリンは種なしぶどうだけに使われているものではない。
果実の成長などを調節する目的で、かんきつ類、トマト、いちごなどにも利用されている。
「種なしにするために危険な薬を使っている」という理解ではなく、
植物が持つ成長の仕組みを農業で利用していると考えた方が実態に近い。
すべての種なしぶどうが同じ方法で作られるわけではない

ここまでジベレリン処理を中心に見てきたが、種なしぶどうには別のタイプもある。
品種そのものの性質によって、通常の種を作りにくいぶどうも存在する。
例えば染色体を3組持つ「三倍体」の植物では、正常な花粉や卵細胞を作りにくく、種ができにくくなる。
また、農研機構が育成した「ハニーシードレス」のように自然状態でも種なしになる品種もある。
ただ、日本で現在広く流通している巨峰、ピオーネ、シャインマスカットなどについては、
ジベレリン処理によって種なし栽培するものが多い。
だから「種なしぶどう」という一つの商品名のように見えても、
もともと種のある品種を栽培技術で種なしにしたものと、
品種自体が種を作りにくいもの
は分けて考える必要がある。
日本で種なしぶどうが広がった理由
ここまでぶどう品種の記事を調べてきて、日本のぶどうが「食べやすい方向」に変わっていることは何度も出てきた。
かつては小粒のデラウェアが主力だった。
その後、巨峰やピオーネのような大粒品種が増え、現在は大粒で種がなく、
皮ごと食べられるシャインマスカットが大きく栽培面積を伸ばしている。
品種が変わる一方で、種なし栽培の技術も発達してきた。
現在では、
・デラウェア
・巨峰
・ピオーネ
・シャインマスカット
・クイーンニーナ
・ナガノパープル
など、かなり多くのぶどうを種なしで食べられる。
品種改良だけで食べやすいぶどうを作ってきたのではなく、栽培技術も一緒に変化してきた結果だった。
調べて思ったこと
種なしぶどうについて調べる前は、種なし用の品種を植えれば、そのまま種のないぶどうができると思っていた。
実際には、普段食べている巨峰やシャインマスカットにも本来は種ができる。
そこへ開花時期を見ながらジベレリン処理を行い、
さらに粒を大きくするための処理や摘粒までして、現在のぶどうが作られていた。
特に面白かったのは、この技術がデラウェアの種をなくすために最初から開発されたわけではなく、
別の研究から偶然見つかったことだった。
種なしが当たり前になった現在では気付きにくいが、日本でぶどうを食べやすくしてきたのは新品種だけではない。
スーパーで「種なし」と書かれたぶどうを見ると
、品種名だけでは見えない栽培技術がかなり詰まっているように感じた。
出典
- 農林水産省「なぜ種のあるぶどうと種のないぶどうがあるのですか」
- 農林水産省「教えて!ぶどう先生」
- 農研機構「ブドウ属の品種一覧」
- 農研機構「シャインマスカット」
- 農研機構「クイーンニーナ」
- 農研機構「グロースクローネ」
- 東京農業大学「ジャンボブドウ種なし化の研究」
- 山梨県果樹試験場「生食用ブドウ」

