スーパーで見かけるじゃがいもには、男爵やメークイン、キタアカリなどがある。
一方、ポテトチップスにはトヨシロやスノーデン、きたひめといった、
野菜売り場ではあまり見かけない品種も使われている。
ポテトチップス用のじゃがいもは、揚げたときの色や加工のしやすさ、長期貯蔵への適性などを重視して選ばれる。
なかでも重要なのが、加熱すると焦げ色の原因になる糖の量だ。
家庭向けのじゃがいもとの違いから、代表品種の特徴、収穫後の貯蔵、農家の栽培まで紹介する。
普通のじゃがいもとポテトチップス用の違い
じゃがいもは用途によって、生食用、加工食品用、でん粉原料用などに分けられる。
男爵やメークインは家庭料理での食感や使いやすさが重視されるのに対し、
ポテトチップス用は薄くスライスして大量に揚げることを前提としている。
| 比較項目 | 生食用じゃがいも | ポテトチップス用じゃがいも |
|---|---|---|
| 代表品種 | 男爵、メークイン、キタアカリ | トヨシロ、スノーデン、きたひめ |
| 主な用途 | 煮物、サラダ、コロッケなど | ポテトチップスなど |
| 重視する特徴 | 食感、風味、料理への適性 | 揚げ色、加工効率、貯蔵性 |
| 糖の性質 | 品種や保存条件によって異なる | 還元糖が少ないことが重要 |
| 形や芽の深さ | 品種によって異なる | 形が整い、芽が浅いものが有利 |
ポテトチップスの製造では、揚げたときに色が濃くなりすぎないことが重要になる。
また、芽のくぼみが浅いじゃがいもは皮むきで取り除く部分が少なく、
形や大きさがそろっていればスライスする工程でも扱いやすい。
ただし、男爵やメークインでポテトチップスを作れないわけではない。
家庭で作ることはもちろん、湖池屋では北海道産の今金男しゃくや静岡県産の三方原男しゃくを使った商品も販売している。
専用品種を使うのは、普通のじゃがいもでは揚げられないからではなく、工場で均一な品質の製品を効率よく作るためだ。
ポテトチップス用じゃがいもの代表品種を比較

日本のポテトチップスには、複数の加工用品種が使われている。
収穫後すぐの加工に適した品種もあれば、数か月間保存しても揚げ色が悪くなりにくい品種もあり、
栽培や貯蔵の条件によって役割が異なる。
| 品種 | 主な特徴 | 加工・栽培上の強み |
|---|---|---|
| トヨシロ | 果肉が白く、芽が浅い | 揚げ色が良い代表的な加工用品種 |
| スノーデン | 長期貯蔵後も揚げ色が安定しやすい | 翌春までの加工原料に適する |
| きたひめ | 長期貯蔵に適し、揚げ色も良好 | ジャガイモシストセンチュウ抵抗性 |
| ぽろしり | カルビーポテトが開発 | シストセンチュウやそうか病への抵抗性 |
| オホーツクチップ | 生育が比較的早く、揚げ色が良好 | シストセンチュウ抵抗性 |
| しんせい | 長期貯蔵しても糖が増えにくい | 翌年6月までの貯蔵適性と害虫抵抗性 |
トヨシロは1976年に育成され、日本のポテトチップス産業を長く支えてきた品種だ。
ただし、長期間貯蔵すると糖が増えて揚げ色が悪くなりやすく、
収穫から時間がたった原料には利用しにくい面がある。
この弱点を補う品種として利用されているのが、スノーデンやきたひめだ。
どちらも長期貯蔵後の揚げ色が良好で、特にきたひめはジャガイモシストセンチュウへの抵抗性も備えている。
一方、ぽろしりやオホーツクチップでは、栽培時の病害虫への強さも重視されている。
ぽろしりはカルビーポテトが初めて自社開発した品種で、シストセンチュウとそうか病への抵抗性を持つ。
新しい品種では、農研機構が開発した「しんせい」も注目されている。
収穫から翌年6月まで約9か月間貯蔵しても糖が増えにくく、
2026年2月の発表では、同年春から本格的な一般栽培を開始する予定とされていた。
こうした品種改良では、工場での加工適性だけでなく、農家が安定して収穫できることも重要になる。
新しい品種が登場しても、収穫時期や貯蔵期間に合わせて複数の品種を使い分ける必要がある。
ポテトチップスの揚げ色が変わる理由

じゃがいもを同じように揚げても、きれいな黄金色になるものと、茶色くなりやすいものがある。
この違いには、じゃがいもに含まれるブドウ糖や果糖などの「還元糖」が関係している。
還元糖は高温で加熱されると、アミノ酸などと反応して褐色の物質を作る。
この仕組みはメイラード反応と呼ばれ、パンの焼き色や肉の香ばしさにも関係する反応だ。
メイラード反応そのものが悪いわけではないが、ポテトチップスでは反応が進みすぎると色が濃くなり、
苦味や外観のばらつきにつながる。
そのため、加工用品種には還元糖が少なく、揚げ色が安定しやすい性質が求められる。
また、高温調理では還元糖とアミノ酸の一種であるアスパラギンが反応し、アクリルアミドが生成される場合がある。食品メーカーが糖の少ない品種を選び、貯蔵温度や加熱条件を管理する背景には、こうした物質の生成を抑える目的もある。
収穫後の貯蔵で重要なこと
じゃがいもは収穫後も呼吸を続けており、保管中に芽が伸びたり、水分が失われたりする。
長期間保存するには温度や湿度を管理する必要があるが、ポテトチップス用には生食用とは異なる難しさがある。
じゃがいもは低温で保存すると、品種や貯蔵条件によって、でん粉から糖への変化が進むことがある。
この現象は低温糖化と呼ばれ、還元糖が増えたじゃがいもを揚げると、色が濃くなりやすい。
保存のためには芽の伸長や腐敗を抑えたい一方、温度を下げすぎると揚げ色が悪くなる場合がある。
そのため、加工用じゃがいもは単に冷やせばよいわけではなく、品種ごとの特性に合わせた貯蔵管理が必要になる。
北海道で秋に収穫されたじゃがいもを翌春まで加工に使えるのも、貯蔵施設の管理と長期貯蔵に適した品種が組み合わされているためだ。
スノーデンやきたひめ、しんせいなどの品種は、こうした長期供給を支える役割を持っている。
加工用じゃがいもの栽培と生産背景

ポテトチップス用のじゃがいもも、種いもを植えて育てる基本的な栽培方法は生食用と共通している。
ただし、加工用では収穫量だけでなく、いもの大きさや形、傷の少なさ、糖の状態なども重要になる。
契約栽培と品質管理
加工用じゃがいもでは、食品メーカーや原料調達会社と農家が契約を結んで栽培する仕組みがある。
カルビーグループでは、カルビーポテトを通じて契約生産者からじゃがいもを調達している。
カルビーによると、収穫したじゃがいもは畑や生産者、品種などの情報を区別して管理し、貯蔵前には品質や比重、揚げ色などを検査している。
工場に運ばれた後も品質を確認するため、畑での生産から製造まで一貫した管理が行われている。
農家にとっては、加工に適した品質のじゃがいもを安定して生産することが重要になる。
契約栽培では出荷先や生産計画を明確にしやすい一方、具体的な価格や取引条件は契約によって異なる。
北海道の畑作と品種の使い分け
北海道は日本最大のじゃがいも産地で、ポテトチップス用の原料も多く生産している。
広い農地を利用した機械化栽培に加え、収穫したじゃがいもを長期間貯蔵して加工工場へ供給する仕組みがある。
北海道の畑作では、じゃがいもを小麦、豆類、てん菜などと組み合わせて栽培する輪作が一般的だ。
同じ畑でじゃがいもを作り続けると病害虫や連作障害の問題が生じやすいため、
ほかの作物と組み合わせることが安定生産につながる。
また、ポテトチップスの原料には長期貯蔵した北海道産だけでなく、
収穫時期の異なる産地のじゃがいもや輸入原料が使われる場合もある。
品種、産地、貯蔵期間を組み合わせることで、継続的な製造に必要な原料が確保されている。
まとめ|ポテトチップス用じゃがいもは加工適性で選ばれる
ポテトチップス用のじゃがいもは、男爵やメークインなどの生食用品種と比べて、
揚げ色や加工効率、長期貯蔵への適性が重視されている。
家庭でポテトチップスを作るなら一般的なじゃがいもでも問題ないが、
大量生産では品質の安定した加工用品種が重要になる。
トヨシロは長く使われてきた代表品種で、スノーデンやきたひめは長期貯蔵への適性が特徴だ。
さらに、ぽろしりやしんせいのように、病害虫への強さや安定生産を意識した品種改良も進んでいる。
ポテトチップスの品質は、工場の加工技術だけで決まるわけではない。
原料となるじゃがいもの品種選びから、農家の栽培、収穫後の貯蔵までが密接に関係している。
参考資料
- カルビーポテト|加工用じゃがいも
- カルビー|原料じゃがいもの品質管理
- 農畜産業振興機構|ばれいしょの需要変化と品種の動向
- 農林水産省|アクリルアミドに関する調査研究
- 農研機構|新品種「しんせい」の開発(2026年2月17日)

