農業を調べていくと、必ずぶつかるのが「獣害」の問題だ。イノシシやシカに畑を荒らされる話は行政資料にも頻繁に出てくるが、実際にどう捕獲し、どう対処しているのかは、数字だけだとイメージしにくい。
そこで参考になるのが、狩猟や獣害対策を実体験ベースで描いた漫画だ。
ここで紹介する5作は、狩猟・駆除・自給自足という一次産業の隣接領域を、笑いも交えながらリアルに見せてくれる。農業をやる・やらないに関わらず楽しめる作品ばかりだが、就農や地方暮らしを検討している人にとっては、「畑を守る」という作業の実態をつかむのに役立つはずだ。
紹介した漫画はkindle unlimitedで読み放題の対象になっている可能性もあるし、
農業関連の本が意外と見つかるため、入っておくのはおすすめだ。

1. 山賊ダイアリー(岡本健太郎)
作品について
岡山県在住の漫画家であり、自身も猟銃所持許可と狩猟免許を持つ作者が、自らの狩猟生活をそのまま描いた実録風漫画。空気銃や自作の罠を使ってウサギ、カモ、イノシシ、ヤマドリなどを獲り、解体して食べるまでの過程が淡々と、しかし熱量高く描かれている。
学べること
狩猟がどういう手順で行われ、どんな道具が必要で、獲った獲物がどう食卓に並ぶのかが、専門書よりずっと体感的に伝わってくる。獲物がなかなか獲れない地味な現実や、特定外来生物であるヌートリアの扱いに関する注意点なども描かれており、野生動物との距離感をフラットに学べる構成になっている。
山に入って糧を得るという行為が、決してロマンだけでは成立しないことも自然と伝わる。
こんな人に向いている
狩猟そのものに関心がある人、ジビエや山の幸を食の視点から知りたい人、農業の前提となる「野生動物と人間の力関係」を体感的に理解したい人におすすめ。
2. 罠ガール(緑山のぶひろ)
作品について
わな猟免許を持つ女子高生・朝比奈千代丸が、実家の田畑を荒らすイノシシやシカ、アライグマなどを罠で捕獲していく物語。
作者自身が農家出身でわな猟免許を持つ兼業農家であり、当初想定されていたコメディ路線から、鳥獣被害の現実をありのままに描く方針に転換して連載が始まった経緯がある。
学べること
この作品の価値は、農業と獣害対策が地続きであることを正面から描いている点にある。
フィールドサイン調査で獣道を見つけてから罠を仕掛けるまでの手順、捕獲後の止め刺しや利活用方法、トレイルカメラを使ったモニタリングなど、現場で実際に使われている技術が丁寧に紹介されている。
日本全国の鳥獣被害が年間150〜200億円規模とされる中、高齢化によって対策の担い手が不足している現状も背景として描かれており、害獣対策の担い手不足という構造的な課題も見えてくる。
こんな人に向いている
新規就農を検討する中で「畑を守る」という作業の実態を具体的に知りたい人、農業と野生動物管理の関係を学びたい人に向いている。
3. ボクらはみんな生きてゆく!(アキヤマヒデキ)
作品について
ヒット作を出せず東京から実家にUターンした漫画家が、冬は鹿やイノシシ、春は山菜やミツバチの蜜、夏はウナギ、秋はキノコと、四季折々の自然の恵みを自分の手で獲って暮らしていく様子を描いたエッセイ漫画。
学べること
獲って、捌いて、食べるという一連の流れが、季節ごとの恵みとセットで描かれていく。鹿の解体や、なかなか手強いイノシシとの攻防など、獣を「資源」として扱う一次産業的な視点が随所にある。
同時に、有機栽培や無農薬野菜を求める消費者が、その裏にある農家の野生動物との闘いを知らないまま価値判断をしてしまう構図への問題提起も込められている。
ジビエが嫌悪される一方で、その背景にある被害の現実を知ってほしいという作者の姿勢が伝わる作品だ。
こんな人に向いている
自給自足的な生き方に惹かれる人、ジビエや狩猟を「都会の人が知らない現実」として捉えたい人に向いている。
4. まんが 新白河原人 ウーパ!(守村大)
作品について
47歳の漫画家が、電気もガスも水道もない福島県白河市郊外の未開の山を購入し、夫婦でゼロから開墾していく実録エッセイ漫画。
学べること
一次産業の入り口として、土地を切り開くという最も原始的な作業が描かれている点が特徴的。山菜採りや農作物作り、鶏を飼って卵や肉を得る暮らしなど、自給自足の範囲が徐々に広がっていく過程が、苦労も含めて記録されている。
東日本大震災後、福島第一原発から100キロの距離で暮らす中での放射能への不安と決断も描かれており、一次産業が天候や災害といった外部要因に常にさらされていることも実感できる。
こんな人に向いている
開墾や土地づくりからの一次産業に関心がある人、野生動物だけでなく自然災害も含めた地方暮らしのリスクを知りたい人向け。
5. 百姓貴族(荒川弘)一部エピソード
作品について
北海道十勝の酪農・畑作農家で過ごした作者の実体験エッセイ。エピソードの中には、エゾシマリスやヒグマなど野生動物との遭遇談も含まれている。
学べること
酪農・畑作という生産現場のすぐそばに、常に野生動物がいるという現実が、笑い話の形で語られる。
ヒグマだけでなくエゾシカやキツネなど、北海道の一次産業が野生動物と隣り合わせで成り立っていることが分かる。暗闇でヒグマと見間違えて脱走した牛に草刈り鎌で立ち向かおうとした話など、北海道の農業が抱える野生動物リスクの大きさを、データではなく実感として伝えてくれる。
被害の深刻さを説教くさく語るのではなく、「日常の中にある危険」として自然に描いている点が、他の作品とは違う角度からの学びになる。
こんな人に向いている
北海道での農業を検討している人、酪農・畑作の現場における野生動物リスクを生活実感のレベルで知りたい人におすすめ。
まとめ:獣害は「数字」ではなく「現場の技術」として理解する
5作品とも、野生動物を脅威として遠ざけるのではなく、捕獲し、利用し、時には食べるという形で向き合っている。これは農業における獣害対策の本質とも重なる。
畑を守るという作業は、罠の仕掛け方や見回りの手順といった具体的な技術の積み重ねであり、感情論だけでは成立しない。
農業を始める前は、獣害という言葉をニュースで見る程度だった。でも実際には、畑を作ることと同じくらい「畑を守ること」も仕事の一部らしい。
今回紹介した漫画は、その現実を数字ではなく体感として教えてくれる作品ばかりだった。


