農業を調べていると、「農業共済」と「収入保険」という似たような制度が出てくる。
どちらも農家を守る制度だが、実は守っているものが違う。
先に結論を書くと下記になる。
- 農業共済 → 作物・家畜・施設などを守る制度
- 収入保険 → 農家の売上を守る制度
新規就農者向けに、まずは違いだけをシンプルに整理してみたい。
農業共済と収入保険の違い

| 項目 | 農業共済 | 収入保険 |
|---|---|---|
| 守るもの | 作物・家畜・施設など | 農家の収入 |
| 主な対象 | 災害・病害虫・鳥獣害 | 売上減少全般 |
| 台風・雹・凍霜害 | ○ | ○ |
| 病害虫 | ○ | ○ |
| 鳥獣害 | ○ | ○ |
| 市場価格下落 | × | ○ |
| 取引先倒産 | × | ○ |
| 青色申告 | 不要 | 必須 |
| 掛金等 | 必要 | 必要 |
| 併用 | 制度による | 制度による |
| 実施主体 | 各地域の農業共済組合(NOSAI) | 全国農業共済組合連合会(NOSAI全国連)※窓口は地域の農業共済組合 |
一言で言うと、
農業共済は「被害を補償する制度」
収入保険は「売上減少を補償する制度」
と考えると分かりやすい。
収入保険と農業共済はどちらかしか選べない品目がある
ここが一番大事なポイントなので先に伝えておきたい。
収入保険と農業共済は、好きなだけ両方に入れるわけではない。
農業共済のうち、果樹共済や農作物共済、畑作物共済などは収入保険との重複加入ができない。
つまり、「自然災害は農業共済」「価格下落は収入保険」と都合よく使い分けることはできない品目がある、
ということだ。
ただし、すべてが選択制というわけではない。
| 制度 | 収入保険との関係 |
| 果樹共済・農作物共済・畑作物共済など | 基本的にどちらか一方を選んで加入 |
| 樹体共済(樹そのものの被害を補償) | 収入保険と併用可能 |
| 園芸施設共済(ハウスなどの施設を補償) | 収入保険と併用可能 |
「収益そのものを補償する制度」か「資産(作物・樹・施設)を補償する制度」かで、選択制か併用可かが分かれる、と考えると整理しやすい。

ケース① 台風でぶどうが全滅した
売上500万円を見込んでいたぶどう農家がいる。
収穫直前に大型台風が来て、ほぼ全滅した。
| 加入している制度 | 結果 |
| 果樹共済 | 共済から補償される |
| 収入保険 | 収入保険から補償される |
どちらに入っていても対象になる、という意味だ。
共済から見ると「作物被害」。収入保険から見ると「売上減少」。
このケースだけを見ると、どちらでも対応できそうに思えるが、次のケースで違いがはっきりしてくる。
ケース② 豊作だったのに価格が暴落した
収穫量は平年並み。
しかし市場価格が下がり、
売上500万円の予定が300万円になった。
| 制度 | 補償対象か |
| 農業共済(果樹共済) | × 対象外(作物自体は問題なく収穫できているため) |
| 収入保険 | ○ 対象(売上減少のため) |
つまり、価格下落のリスクは農業共済では備えられない。
ケース③ 取引先が倒産した
直売や業務用販売をしている農家を考える。
売上500万円の予定だったが、大口取引先が倒産して300万円しか回収できなかった。
| 制度 | 補償対象か |
| 農業共済 | × 対象外 |
| 収入保険 | ○ 対象になる可能性がある |
ケース②・③のように、「作物自体に問題はないが、売上が減る」というパターンは農業共済では守れない。
ここが、収入保険が2019年に新しく作られた理由でもある。
農業共済とは?
農業共済は、農業災害補償法に基づく公的制度だ。
対象によって複数の共済に分かれている。
| 共済の種類 | 主な対象品目 |
| 農作物共済 | 水稲・麦など |
| 畑作物共済 | 大豆・てん菜・じゃがいもなど |
| 果樹共済 | ぶどう・りんご・みかんなど |
| 家畜共済 | 牛・豚など |
| 園芸施設共済 | ビニールハウスなど |
| 任意共済 | 農機具・建物など |
作物ごとに加入する制度なので、「何を作るか」で入れる共済が変わる。
収入保険とは?
収入保険は2019年から始まった制度。
対象は作物ではなく、農業経営全体の収入になる。
加入できるのは、青色申告をしている農家。
米でも野菜でも果樹でも対象になる。
ちなみに、農林水産省の資料では、基準収入1,000万円・5年分の青色申告実績がある場合、収入がゼロになっても最大810万円まで補償されるという試算例が紹介されている。
ただし、810万円がそのまま現金でもらえるわけではなく、加入内容や補償割合、積立金の設定などによって補償額は変わる。
「収入がいくら減っても、ある程度の下限ラインは守られる」というのが収入保険の考え方だ。
新規就農者はどちらに入るべき?

実際は「共済か収入保険か」ではなく、
何を守りたいかで考える。
| 心配なリスク | 向いている制度 |
| 台風・雹・凍霜害・鳥獣害など作物被害 | 農業共済 |
| 価格下落・販売不振・取引先倒産など経営リスク全般 | 収入保険 |
果樹農家の場合
例えばぶどう農家なら、基本的に下記のどちらか選択になる。
- 果樹共済
- 収入保険
一方で、下記は収入保険と併用できる。
- 樹体共済
- 園芸施設共済
そのため、単純な二択ではない。
「収益を補償する制度」と「資産(樹・施設)を補償する制度」は別物として考えると分かりやすい。
私自身も最初は「結局どっちに入ればいいのか」がよく分からなかった。調べてみると、農業共済は作物や施設の被害を補償する制度、収入保険は売上減少を補償する制度だった。制度の細かい違いは複雑だが、まずは「何を守る制度なのか」を理解するだけでもかなり整理しやすくなると思う。
詳しい制度は別記事で解説します
この記事では違いだけに絞った。
制度の中身まで説明するとかなり複雑になるため、詳しくは別記事で解説する。
まとめ
農業共済と収入保険は似ているようで役割が違う。
- 農業共済 → 作物・家畜・施設などを守る
- 収入保険 → 農家の売上を守る
そして、農業共済の対象品目によっては収入保険と同時に選べないものがある一方、樹体共済や園芸施設共済のように併用できる制度もある。
台風や病害虫などの被害への備えを重視するなら共済。
価格下落や販売不振まで含めて経営全体を守りたいなら収入保険。
まずは「何を守る制度なのか」「品目によっては選択制になる」という2点を理解しておくと、その後の制度比較がかなり分かりやすくなる。
出典
- 農林水産省「農業保険(収入保険・農業共済)」
- 農林水産省「農業経営の収入保険(詳細)」