瀬戸内海式気候とは?なぜ雨が少なく温暖なのか、農業との関係を調べてみた

瀬戸内海式気候が雨が少なく温暖になる理由と農業との関係を示したアイキャッチ画像
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広島県は国産レモンの生産量日本一で、その背景には瀬戸内の温暖で雨が少ない気候があることが分かった。

そこで気になったのが、そもそも瀬戸内海式気候とは何なのか、ということだった。

学校の地理では、瀬戸内は雨が少なく温暖と習った記憶がある。
でも、なぜ中国地方や四国の中でも瀬戸内だけ雨が少ないのか、農業にはどんな影響があるのかまではほとんど覚えていなかった。

調べてみると、ポイントは瀬戸内海そのものより、北側の中国山地と南側の四国山地にあった。

今回は、瀬戸内海式気候がなぜ温暖で雨が少ないのか、そしてその気候が農業にどんなメリットと弱点をもたらしてきたのかを調べてみた。

目次

瀬戸内海式気候とは

瀬戸内海式気候は、瀬戸内海を囲む地域に見られる気候で、公式資料では「瀬戸内式気候」と表記されることもある。

農研機構は、日本海側気候、瀬戸内式気候、太平洋側気候という3つに分けたうえで、
瀬戸内式気候について、季節風が中国山地と四国山地に遮られるため一年を通して降水量が少なく、
冬は海に面していることもあって比較的温暖だと説明している。

地域としては、岡山県南部、広島県南部、香川県、愛媛県北部、兵庫県南西部、山口県南部など、瀬戸内海沿岸に広く見られる。

ただし、瀬戸内海沿岸ならどこでもまったく同じ気候というわけではない。
地域によって降水量や気温には差があり、「瀬戸内=年間降水量○mm」と一つの数字では表せない。

共通する大きな特徴が、雨が比較的少なく、日照時間が長く、冬の寒さが厳しすぎないことだ。

なぜ瀬戸内は雨が少ないのか

一番気になっていたのがここだった。
雨が少ない理由は、瀬戸内海があるからというより、その周囲にある山地の影響が大きい。

夏は太平洋側から暖かく湿った空気が入ってくる。
この空気が四国にぶつかると、急峻な四国山地を上ることで雨を降らせる。

そのため、高知県など太平洋側では雨がかなり多くなる。
一方、四国山地を越えた瀬戸内側まで来るころには空気中の水分が少なくなり、雨が減る。

冬は逆になる。

日本海側から入ってくる冷たい季節風は、中国山地で雪や雨を降らせる。
中国山地を越えた山陽側では、冬でも晴れる日が多くなる。

つまり瀬戸内は、北から来る空気も南から来る空気も途中で山にぶつかる。

北は中国山地、南は四国山地。

この二つの山地に挟まれた位置にあることが、瀬戸内の少雨につながっている。

気象庁も、四国では南からの湿った空気が四国山地に遮られるため、高知など太平洋側に比べて高松など瀬戸内側の降水量が少なくなると説明している。

高松と高知では年間降水量が2倍以上違う

高松と高知の年間降水量を比較し四国山地による雨量差を示した図

数字で見ると分かりやすい。
気象庁の平年値では、年間降水量は高松が1,150.1mmなのに対して、高知は2,666.4mm。

同じ四国でも2倍以上違う。
四国山地を挟んでいるだけで、これほど差が出る。

高知は南からの湿った空気や台風の影響を受けやすく、春から秋に雨が多い。
一方、高松では年間を通して降水量が少ない傾向がある。

以前は「四国は暖かい地域」という大きなくくりで考えていたが、気候まで見ると太平洋側と瀬戸内側はかなり別物だった。

瀬戸内はなぜ温暖なのか

中国山地と四国山地が季節風を遮り瀬戸内側で雨が少なくなる仕組み

雨が少ない理由は山地でかなり説明できる。
では、なぜ温暖なのだろう。

一つは、瀬戸内海に面していることだ。

海は陸地に比べて温まりにくく冷えにくい。
そのため沿岸地域では、冬の気温が内陸部ほど下がりにくい。

さらに冬の冷たい季節風も中国山地によってある程度遮られる。

中国地方の気象庁資料を見ると、冬の平均気温は山陽の沿岸部を中心に高く、中国山地沿いではかなり低くなる。
冬の日照時間も山陽沿岸部では多く、日本海側とははっきり差がある。

ただし、「瀬戸内は一年中暖かい」と考えると少し違う。

冬は比較的温暖だが、夏はかなり暑くなる。
農研機構も、瀬戸内式気候について冬は温暖だが夏季は気温が高いと説明している。

温暖・少雨・日照の多さは果樹栽培と相性がいい

この気候が農業とどう関係するのか。

レモンは寒さに弱く、雨が多いとかいよう病が発生しやすい。
冬が比較的暖かく、雨が少ない瀬戸内はレモン栽培と相性がよく、広島県が国内最大の産地になった背景にもこの気候がある。

ただ、瀬戸内の農業はレモンだけではない。

みかんなどの柑橘、オリーブ、野菜など、日当たりと温暖な気候を生かした農業が各地で発達している。

小豆島町は、オリーブ栽培が成功した理由について、
明るく温暖で雨が少ない気候がオリーブの原産地である地中海に似ていたことを挙げている。

岡山県瀬戸内市の牛窓地区でも、
冬場の温暖さと日照時間の長さを利用して、白菜やキャベツなどの露地野菜産地が形成されている。

つまり、瀬戸内海式気候は果樹だけに有利なのではなく、冬場も比較的生産を続けやすいという強みも持っている。

ただし、雨が少ないことは農業にとって弱点でもある

ここまで見ると、瀬戸内海式気候は農業にとってかなり恵まれているように見える。
でも、雨が少ないことには当然デメリットもある。

最も分かりやすいのが水不足だ。

農研機構は、瀬戸内式気候では降水量が少ないため干ばつが起こりやすく、多くのため池が見られると説明している。
特に香川県はその代表例だ。

香川県によると、県内は年間を通じて降水量が少なく、河川の流量も乏しい。
そのため昔から農業用水をため池に貯め、節水しながら農業を続けてきた。

つまり、香川にため池が多いことと、瀬戸内海式気候は別々の話ではなかった。

雨が少ないから、水を貯める必要があった。

農業に向いた日照や温暖さを持つ一方で、水をどう確保するかという課題も抱えていたことになる。

香川のため池は瀬戸内海式気候への適応だった

瀬戸内の少雨による水不足をため池・ダム・用水路・灌漑設備で補う仕組み

香川県の資料を見ると、この関係がかなり分かりやすい。

東讃地域では年間平均気温16.7℃、降水量1,150mmとされ、瀬戸内式気候に属している。
ところが流域面積が狭く降水量も少ないため河川の流量が乏しく、水田などの農業用水はダムやため池、香川用水によって支えられている。

雨が多い地域なら、川や降水から比較的水を確保しやすい。

香川ではそうはいかない。

その代わり、ため池を大量に整備し、水を貯めて必要な時期に使う仕組みを作った。
気候そのものだけでなく、その気候に合わせて農業の仕組みまで変えてきたのが面白い。

瀬戸内の農業は「少雨だから有利」ではない

今回調べていて、一番認識が変わったのがここだった。

瀬戸内の農業について、「雨が少なく日照時間が長いから果物がおいしくなる」といった説明をよく見る。

もちろん少雨や日照は、作物によっては大きなメリットになる。
ただ、雨が少なければ農業用水は不足する。
干ばつになれば収量にも影響するし、水田農業では特に大きな問題になる。

そのため瀬戸内では、気候のメリットをそのまま享受しているだけではない。
ため池、ダム、用水路、灌漑設備などを使って、少雨という弱点を人間側が補いながら農業を成立させてきた

レモンやオリーブが有名という表面的な部分だけを見るより、こちらの方が瀬戸内農業の特徴として面白いと思う。

瀬戸内海式気候は農産物の種類にも影響している

地域ごとに見ると、気候の生かし方も違う。
・広島ではレモン。
・愛媛では柑橘。
・香川の小豆島ではオリーブ。
・岡山では果樹や冬場の露地野菜。

同じ瀬戸内海式気候でも、地形や土壌、水の確保方法、市場との距離などによって作られるものは変わる。
つまり、瀬戸内海式気候だから特定の作物が必ず作られるわけではない。

ただ、温暖、少雨、日照時間が長いという共通条件が、各地域の農業の土台になっている。

瀬戸内レモンが広がった理由も気候だけではなかった

前回調べた瀬戸内レモンの記事とも、ここでつながった。
レモンは、冬が比較的暖かく雨が少ない瀬戸内の気候に合っていた。

でも、広島が国内生産量日本一になったのは気候だけではない。
1898年にレモン栽培が始まり、その後100年以上にわたって栽培技術、貯蔵、流通、周年供給の仕組みを作ってきた。

瀬戸内海式気候は産地形成の土台ではある。
そこに人の技術や産地づくりが重なって、現在の農業がある。

瀬戸内レモンはなぜ有名?広島県が生産量日本一になった理由を調べてみた

調べて思ったこと

瀬戸内海式気候について、調べる前に覚えていたのは「温暖で雨が少ない」くらいだった。

理由まで見てみると、中国山地と四国山地に挟まれているという地形がかなり大きい。

夏は南から来る湿った空気を四国山地が遮り、冬は日本海側から来る季節風を中国山地が遮る。
その結果、瀬戸内側では一年を通して雨が比較的少なくなる。

その気候は、レモンやオリーブなどの農業には強みになる。

一方で、雨が少ないから水不足が起こりやすく、香川では昔から大量のため池を作って農業用水を確保してきた。
つまり、瀬戸内海式気候は単純に農業に向いた気候ではない。

日照や温暖さを生かしながら、少雨という弱点を水利技術で補ってきた地域だった。

レモンが有名な理由を調べて始まった話だったが、気候まで掘ると、農産物だけでなく地域の景観やため池の多さまで同じ原因につながっていた。

普段見ている地域の特徴も、気候から見るとかなり違って見える。

参考・確認した情報源

  • 気象庁「四国の天候」― 瀬戸内側と太平洋側の降水量差、四国山地の影響 (data.jma.go.jp)
  • 気象庁「中国地方の天候」― 中国山地と山陽・山陰の冬の気候差 (data.jma.go.jp)
  • 農研機構「近畿中国四国農業研究センター研究資料」― 瀬戸内式気候の特徴、少雨と干ばつ
  • 中国四国農政局「中国四国地域の概況」― 日本海側・瀬戸内海沿岸・太平洋側の気候区分
  • 香川県「ため池の役割」― 少雨と農業用ため池の関係
  • 香川県東讃農業改良普及センター「管内の概要」― 瀬戸内式気候と農業用水
  • 小豆島町「小豆島オリーブ」― 温暖・少雨の気候とオリーブ栽培
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この記事を書いた人

Field Note Farmのアバター Field Note Farm 東京で暮らす会社員

会社員として働きながら、食・産地・地方・農業への解像度を少しずつ上げていく記録を発信しています。

直売所や地方の空気、食材の生産背景、新規就農について調べたことや考えたことを中心にまとめています。

将来的な新規就農を目指しながら、農業体験や自治体相談、地域研究を続けており、その過程も記録しています。

都市生活や暮らしの工夫については「Field Note Life」でも発信しています。

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