いちごは種から育てない?ランナーで苗を増やす理由と「よつぼし」の違いを調べてみた

いちごをランナーで増やす理由と種子繁殖型よつぼしの違いを比較するアイキャッチ画像
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いちごの表面には、小さな粒がたくさん付いている。
普段はこれを「いちごの種」と呼ぶことが多い。

そのため、いちご農家もこの種をまいて苗を作っているのだと思っていた。
しかし実際には、日本で栽培されているいちごの多くは種から増やしていない。

親株から横へ伸びる「ランナー」と呼ばれる茎を使い、その先にできる子株を苗として増やしている。
しかも農研機構によると、10aのいちご栽培には約7,000株の苗が必要になる。

農家は果実を収穫するだけでなく、次のシーズンに使う苗も同時に育てている。
一方、最近では種から増やせる「よつぼし」のような品種も登場している。

今回は、なぜ普通のいちごは種から増やさないのか、ランナーで苗を作る仕組みや育苗の手間、種子繁殖型いちごとの違いまで調べた。

目次

普通のいちごは種から増やさない

現在栽培されているいちご品種の多くは、「栄養繁殖」という方法で増やされている。
栄養繁殖とは、種をまくのではなく、植物の茎や根などを使って新しい株を作る方法だ。

いちごでは親株から伸びるランナーを利用する。

農研機構によると、一般的ないちごは種を採ってまいても、親とまったく同じ性質のいちごにはならない。

そのため、
親株
↓
ランナー
↓
子株
↓
苗
↓
次の栽培

という方法で品種を維持している。

とちおとめ、あまおう、紅ほっぺなど、多くの主要品種もこのタイプになる。

ランナーとは何?

いちごの親株からランナーが伸び、一次子株・二次子株を経て苗として独立する仕組みを示した図

ランナーは、いちごの株元から横方向へ伸びていく細長い茎だ。
地面や育苗ポットの上を這うように伸び、その途中や先端に新しい小さな株ができる。

この子株が地面や培地に触れると根を出し、新しいいちご株になる。

さらにその子株から次のランナーが伸びれば、
親株
↓
一次子株
↓
二次子株
↓
三次子株

と増えていく。

家庭菜園でも、いちごを育てていると春から夏にかけて株から長い茎が伸び、その先に小さな葉ができることがある。

あれが次の苗になる。

ランナー苗は親株のクローン

ランナーで増えた子株は、基本的に親株と同じ遺伝子組成を持つ。
いわば親株のクローンだ。

これが、いちご栽培でランナー繁殖を使う大きな理由になる。
例えば「あまおう」の親株からランナーで増やせば、基本的にはあまおうと同じ性質を持つ苗になる。

一方、種を採ってまくと、親と同じ形・味・収量になるとは限らない。

農業では、
・果実の大きさ
・色
・味
・収量
・収穫時期
などをそろえる必要がある。

そのため、同じ性質をそのまま引き継げるランナー繁殖が利用されてきた。

10aで約7,000株の苗が必要

ランナーで増やすと聞くと、勝手に増えるので簡単そうにも感じる。
実際にはかなりの苗数が必要になる。

農研機構によると、いちご栽培では10a当たり約7,000株の苗を使用する。

10aは1,000㎡。
それだけの面積で、約7,000株必要になる計算だ。

しかも親株1株から取れる子苗は、およそ20〜40株程度とされている。

単純計算でも、7,000株の苗を作るには大量の親株とランナー管理が必要になる。

苗はどうやって農家まで届く?

いちごの苗は、1軒の農家だけですべてを最初から増やしているわけではない。

農研機構によると、
公設試験場など
↓
JAなど
↓
生産者

と段階的に苗を増殖・供給する仕組みが使われている。

そのうえで農家自身も親株を持ち、次年度に必要な苗を増やす。

つまり農家では今年の果実を収穫する作業と同時に、
来年の苗を育てる作業も進んでいる。

いちご農家の仕事を考えると、果実がスーパーに並ぶまでの作業だけではなく、
翌年の生産準備まで同時進行していることになる。

ランナー苗づくりは5〜8月ごろが忙しい

促成栽培では秋に苗を本圃へ定植する。
そのため、その前の春から夏に苗を作る。

農研機構が紹介している従来型の栽培では、
生産者が自前の親株を持ち、5〜8月ごろにランナーから苗を増殖・育苗している。

冬から春にいちごを収穫し、
春から夏には翌年の苗を作り、
秋にその苗を定植する。

つまり、収穫が終わったら仕事も終わるわけではない。

むしろ次の栽培サイクルがすでに始まっている。

ランナー繁殖には病気を引き継ぐリスクもある

ランナー繁殖には大きなメリットがある。
親株と同じ性質の苗を作れることだ。

一方で、親株の問題まで引き継ぎやすいという弱点がある。

農研機構は、親株が病害虫に侵されていた場合、
ランナーで増えた子苗にも病害虫を引き継ぐリスクが高くなるとしている。

農林水産省の施設いちごの総合防除指標でも、自家育苗する場合には親株を毎年更新し、
炭疽病や萎黄病などの発病が見られる苗やその周辺苗を使用しないことを重視している。

炭疽病や萎黄病は育苗期にも重要

いちごの育苗で特に問題になる病害の一つが炭疽病だ。
農薬登録でも、いちごの炭疽病に対して「育苗期」に使用する防除方法が設定されている。

また、萎黄病も苗を通して広がる病害として注意が必要だ。
農林水産省の資料でも、いちごの萎黄病はランナー苗による伝染例があるとされている。

つまり良い果実を作るためには、畑へ植えた後だけでなく、
苗を作っている段階から病害管理が始まっている。

苗づくりがいちご栽培の重要な工程になる理由の一つだ。

では、なぜ種から増やさない?

ここまでを見ると、種から育てれば病気の問題も減り、簡単そうに感じる。
しかし一般的ないちごでは、種から育てると親と同じ性質にならない。

これはいちごが交雑によってできた品種だからだ。

同じ親から採れた種でも、
・果実が大きい株
・小さい株
・甘い株
・酸っぱい株
など性質が分かれる可能性がある。

商品として同じ品種を作り続けるには困る。

そのためクローンとなるランナー苗を使ってきた。

種から増やせる「よつぼし」が登場した

この従来の仕組みを変える品種として登場したのが「よつぼし」だ。
よつぼしは、種子繁殖型いちごとして開発された。

2017年に品種登録されている。

通常のいちごとは違い、種を使って苗を大量生産できる。
農研機構によると、種子繁殖型いちごはランナー繁殖型より増殖効率が40倍以上高い。

そのため農家が一株ずつランナーを管理しなくても、種苗会社側で大量に苗を生産できる。

種子繁殖だと苗づくりを分業できる

いちごのランナー繁殖と種子繁殖の違い、親株管理や育苗作業の差を比較した図

従来型では農家自身が、
親株を管理
↓
ランナーを伸ばす
↓
子苗を取る
↓
ポットで育苗
↓
定植

まで行うことが多い。

よつぼしのような種子繁殖型では、
種苗会社が種からセル苗を生産
↓
農家が苗を購入
↓
育苗または直接定植

という分業が可能になる。

農家は大量の親株を維持する必要がなくなる。

苗づくりという一つの農作業を、専門の種苗会社へ外注できるようなイメージに近い。

よつぼしでは育苗作業を約30%減らせる

農研機構などの研究では、よつぼしを使った「二次育苗体系」が開発されている。

種苗会社から購入した小さなセル苗を、農家がポットへ植え替え、約2カ月育ててから本圃へ定植する方法だ。

従来栽培に近い方法ながら、
・親株の保管
・ランナーの発生管理
・子苗の採取

が不要になる。

その結果、育苗から定植までの作業時間を従来の栄養繁殖型品種より約30%削減できた。

セル苗をそのまま畑へ植える方法もある

さらに省力化したのが「本圃直接定植体系」だ。
種苗会社から購入したセル苗を、そのまま本圃へ植える。

この方式なら農家側の育苗施設そのものが不要になる。
農研機構の研究では、この方式によって育苗労力を約90%削減できるとしている。

ただし、直接定植すれば何でも簡単になるわけではない。
苗が小さい段階から本圃で管理するため、その栽培体系に合った給液や肥培管理が必要になる。

種子繁殖型に合わせた技術開発が必要だったのも、このためだ。

種子繁殖は病気の面でもメリットがある

種子繁殖型にはもう一つ大きな利点がある。

病害リスクだ。
ランナー苗は親株と直接つながって増える。

そのため親株が病害虫に感染していれば、子株も影響を受けやすい。
一方、農研機構によると、多くの病害虫は種子を通して伝染しないため、
種子繁殖型では親株から病害虫を引き継ぐリスクを大きく減らせる。

もちろん種から育てれば病気が完全になくなるわけではない。
育苗や定植後には別の感染リスクがある。

ただ、親株から苗へ病害を持ち込む経路を減らせるのは大きい。

よつぼしはどれくらい広がっている?

農研機構によると、よつぼしの推定栽培面積は、

年度推定栽培面積
2018年度14.2ha
2020年度30.9ha
2022年度39.4ha

と増えている。

全国主力品種と比べればまだ小さい。

ただし、よつぼしの重要なところは単純な作付面積だけではない。
種子繁殖型という新しいいちご生産方式そのものを実用化したことにある。

従来はいちご農家が行うのが当たり前だった育苗作業を、種苗会社と分業できる可能性が出てきた。

ランナー繁殖と種子繁殖を比較すると

違いを整理するとこうなる。

項目ランナー繁殖種子繁殖
代表とちおとめ等、多くの従来品種よつぼし等
増やし方親株から子株種から発芽
親と同じ性質クローンなので揃う種子繁殖向けに育成
増殖効率低め非常に高い
親株管理必要基本的に不要
農家の育苗多い減らせる
病害伝染親株から引き継ぐリスク種子伝染しない病害では低減
種苗会社で大量生産難しいしやすい

従来型が悪く、種子繁殖がすべて優れているという話ではない。

既存の主力品種や栽培ノウハウはランナー繁殖を前提に作られている。

一方で、労働力不足や病害対策を考えると、種子繁殖型には大きな可能性がある。

いちご農家が冬春の収穫、春夏のランナー苗取り、夏の育苗、秋の定植を繰り返す年間サイクルを示した図

いちご農家は「果実」と「苗」の両方を作っている

今回調べていて特に印象に残ったのがここだった。

いちご農家というと、
ハウスでいちごを育てる
↓
赤くなった果実を収穫する

という仕事を想像する。

実際には、その裏で次年度の苗まで作っている。
・冬から春は果実を収穫。
・春から夏はランナーを伸ばして苗を増やす。
・夏は育苗。
・秋に定植。
そしてまた冬から収穫する。

一年間の中で、果実を作る期間と次の株を作る期間がつながっている。

種子繁殖型いちごは、このサイクルの「苗づくり」の部分を変える技術ともいえる。

調べて思ったこと

いちごの表面に種のような粒が大量に付いているので、
いちごほど種から簡単に増やせそうな果物はないと思っていた。

実際には、多くのいちごは種から増やさず、ランナーでクローンを作っている。
さらに10aで約7,000株もの苗が必要で、農家自身が翌年用の苗を春から夏に育てていることも意外だった。

果実を作る技術だけではなく、良い苗を大量にそろえるところからいちご栽培が始まっている。
その仕組みに対して、よつぼしのような種子繁殖型品種はかなり違う発想だった。

種苗会社で大量に苗を作り、農家は苗を買って栽培に集中する。

いちごの品種改良は、甘さや大きさだけでなく、
「農家がどう働くか」というところまで変え始めていることが分かった。

出典

  • 農研機構「種子繁殖型イチゴ『よつぼし』の栽培と育苗の省力化」
  • 農研機構「種子繁殖型イチゴ品種『よつぼし』の栽培技術体系」
  • 農研機構「種子イチゴイノベーションに向けた栽培体系と種苗供給体制の確立」
  • 農林水産省「総合防除実践指標モデル(施設栽培いちご)」
  • 農林水産省「農薬登録情報提供システム」
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この記事を書いた人

Field Note Farmのアバター Field Note Farm 東京で暮らす会社員

会社員として働きながら、食・産地・地方・農業への解像度を少しずつ上げていく記録を発信しています。

直売所や地方の空気、食材の生産背景、新規就農について調べたことや考えたことを中心にまとめています。

将来的な新規就農を目指しながら、農業体験や自治体相談、地域研究を続けており、その過程も記録しています。

都市生活や暮らしの工夫については「Field Note Life」でも発信しています。

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