スーパーでトマトを見ていると、普通のトマトより小ぶりで、少し高い「フルーツトマト」が並んでいることがある。
名前だけを見ると、桃太郎やアイコのような品種名にも見える。
しかしフルーツトマトという品種があるわけではない。
農林水産省では、フルーツトマトを特別な栽培方法によって糖度を高めたトマトとして紹介している。
同じ品種でも、水や根の状態を調整することで高糖度に仕上げることができる。
では、なぜ水を少なくするとトマトが甘くなるのだろうか。
普通のトマトとの違い、糖度8度という数字の意味、実が小さくなる理由、代表的なブランドまで調べてみた。
フルーツトマトは品種名ではない
まず一番分かりにくいところから整理すると、「フルーツトマト」は特定の品種名ではない。
農林水産省は、品種にかかわらず、水や肥料を抑えたり、塩分の多い土壌を利用したりして甘味を引き出したトマトをフルーツトマトとして紹介している。
つまり、
桃太郎
アイコ
フルティカ
のような名前は品種だが、
フルーツトマトは栽培や品質による呼び方になる。
同じ品種でも、普通に育てれば一般的なトマトとして出荷され、水分や根域を厳しく管理して糖度を高めればフルーツトマトとして販売される場合がある。
前の記事で大玉・中玉・ミニは主に品種と果実サイズの違いだったが、フルーツトマトはそれとは別の分類になる。
普通のトマトと何が違う?
大まかに比較すると、次のようになる。
| 項目 | 一般的なトマト | フルーツトマト |
|---|---|---|
| 品種 | 多数 | 特定品種ではない |
| 糖度 | 3〜6度程度の例が多い | 8〜9度以上の商品例が多い |
| 水管理 | 生育・収量を確保する給水 | 水分ストレスを与えることがある |
| 根 | 十分に広げる栽培も多い | 根域を制限する場合がある |
| 果実 | 品種本来の大きさに近い | 小ぶりになりやすい |
| 味 | 甘味・酸味・水分のバランス | 甘味・酸味・うま味が濃く感じやすい |
| 収量 | 確保しやすい | 高糖度化すると低下しやすい |
| 価格 | 一般的 | 高価格帯になりやすい |
農林水産省の資料では、一般的なトマトの糖度を3〜5度程度、フルーツトマトを8〜9度以上として紹介した例がある。別の農水省資料では、一般的なトマトは6度程度で、10度を超えるフルーツトマトもあるとしている。
数字に少し幅があるのは、品種や栽培条件によって普通のトマト自体の糖度が変わるためだ。
糖度8度以上ならフルーツトマト?
「フルーツトマト=糖度8度以上」と説明されることは多い。
農林水産省も、基準はないものの糖度8度以上を高糖度トマトとして販売している例が多いと紹介している。
ここで大事なのは、糖度8度という全国共通の法的基準があるわけではないことだ。
農家や産地、ブランドごとに選果基準を決めているため、
どこでも8度を超えれば自動的に同じ規格のフルーツトマトになるわけではない。
実際、新潟県のタカギ農場では糖度6.6度以上を一定の商品基準とし、
その中でも8度を超えるものをフルーツトマトとして出荷している。
「8度」はよく使われる目安ではあるが、正式な全国統一規格ではないと考えた方が分かりやすい。
なぜ水を減らすとトマトが甘くなる?

フルーツトマトでよく使われるのが、水を抑える栽培だ。
普通に考えると、水をたくさん与えた方が植物はよく育ちそうに見える。
実際、水分が十分にあればトマトの果実も大きくなりやすい。
ただし果実の中に入る水分量も増える。
一方で給水を抑えると、果実が水を大量に取り込めなくなり、果実中の糖や酸、アミノ酸などが相対的に濃くなる。
農研機構が紹介する試験でも、土壌水分を低く管理することで果実糖度を高められることが確認されている。
単純に植物が苦しんだ結果「砂糖を作る」のではなく、水分の吸収や果実肥大が抑えられることで、
果実中の成分濃度が高まりやすくなると考える方が近い。
水を減らすだけではない

高糖度トマトというと、「水やりを少なくする」という方法が最も分かりやすい。
ただ、実際の農業ではそれだけではない。
代表的な方法には、
- 給水量を少なくする
- 根が伸びる範囲を狭くする
- 培養液の濃度を高める
- 塩類による浸透圧を利用する
などがある。
農研機構では、根の広がる範囲を制限したうえで給液を細かく制御する「根域制限栽培」によって、
糖度8度以上の高糖度トマトを生産する技術を研究している。
別の技術では、カルシウムやマグネシウムなどを含む高濃度培養液を利用し、
根へ水ストレスを与えながら高糖度化している。
フルーツトマトは「水をあげないトマト」というより、
根がどれだけ水を吸えるかを細かくコントロールしたトマトと考えた方が実態に近い。
根域制限とは?
根域制限は、その名前の通り根が伸びられる範囲を制限する栽培方法だ。
普通の畑では根は周囲の土へ広がり、水や養分を探すことができる。
一方、根域制限ではシートや容器などを使って根の範囲を狭くする。
根が自由に水を探しに行けないため、農家が与える水量によって株の水分状態をコントロールしやすくなる。
高知県の研究では、防根透水シートを利用した根域制限栽培と日射量に合わせた点滴かん水を組み合わせ、
糖度8度以上の高糖度トマトを安定して生産する技術が検討されている。
水を絞るといっても、農家の感覚だけで乾かしているわけではない。
日射量や土壌水分、培養液の濃度を測りながら細かく調整する栽培も行われている。
塩分でもトマトは甘くなる?
少し意外なのが、塩分を利用する方法だ。
熊本県の「くまもと塩トマト」は、土壌中の塩分濃度が高い地域で作られる。
農林水産省の地理的表示登録資料によると、塩分による浸透圧の影響で株が水や養分を吸いにくくなり、果実も小さくなる。
その一方で、果実重量あたりの糖類や遊離アミノ酸の割合が高まり、濃厚な食味になる。
考え方は節水栽培と似ている。
水そのものがないのではなく、土に水があっても根が吸収しにくい環境を作ることで水ストレスがかかる。
高糖度化には、単純な水不足だけでなく「植物が水を吸いにくい状態」を利用する方法もある。
甘くすると実が小さくなる
フルーツトマトを見ると、普通の大玉トマトより小ぶりなものが多い。
これは偶然ではない。
農林水産省も、フルーツトマトは水やりを少なくして育てるため、普通のトマトほど大きくならないとしている。
果実が大きくなるためには、水が必要になる。
高糖度にするため給水を抑えると、果実の肥大も抑えられる。
その結果、一つの果実は小さくなる一方で、中の糖や酸などが濃縮されたような状態になる。
これはフルーツトマト栽培の重要なトレードオフになる。
甘くするほど農家が得するわけではない
糖度が高ければ高価格で販売できるなら、すべてのトマトを高糖度にすればよさそうにも思える。
しかし高糖度化すると、果実が小さくなりやすく、収量も下がりやすい。
さらに水分ストレスを強くかけすぎれば、株そのものが弱ったり、生育が止まったりする可能性もある。
農研機構が通常栽培でも糖度の高い品種「甘しずく」を育成した背景にも、
根域制限や水切りによる高糖度トマト生産には多くのコストと労力が必要になるという問題があった。
つまり農家は、
・糖度を上げたい
・収量も確保したい
・株を弱らせたくない
という3つを同時に考える必要がある。
水を極限まで減らせばいいという単純な栽培ではない。
高糖度と多収を両立する研究も行われている
この問題を解決するため、農業試験場では水分管理を自動化する研究も行われてきた。
高知県の研究では、ハウス内の日射量をもとに必要なかん水量を計算し、
1回100mL/株ずつ点滴するシステムを使っている。
この方法では、根域制限栽培でも糖度8度以上を維持しながら多収化を目指している。
和歌山県でも土壌水分センサーを使った自動かん水によって、高糖度化する技術が検討されている。
フルーツトマト栽培は「農家が水を少し控える」というより、水分をかなり精密に制御する農業技術になっている。
大玉・中玉・ミニのどれでもフルーツトマトになる?
フルーツトマトは果実サイズの分類ではないため、理屈の上では大玉・中玉・ミニとは別の軸になる。
農林水産省も、フルーツトマトは品種に関係なく栽培方法によって甘味を高めたものとしている。
実際には中玉程度の商品をよく見かけるが、大玉品種を使ったフルーツトマトもある。
農林水産省が紹介している茨城県の「スーパーフルーツトマト」は、大玉品種を使って高糖度化した例になる。
つまり、
・大玉・中玉・ミニ
→ 果実サイズ
・フルーツトマト
→ 高糖度化した栽培・商品カテゴリー
という違いになる。
ミニトマト=フルーツトマトでもない。
高糖度になる品種もある
フルーツトマトは栽培方法によって作るものだが、品種の影響がないわけではない。
もともと糖度が上がりやすい品種もある。
群馬県で育成された「甘しずく」は、特別な水切りや根域制限を行わなくても、
通常栽培で高糖度の果実を作れることを目的に育成された。
つまり高糖度化には、
品種の持つ性質
+
水分管理
+
根の管理
+
日射や温度
など複数の要素が関係している。
栽培技術だけでも、品種だけでも決まらない。
代表的なフルーツトマトブランド
フルーツトマトには地域や農園ごとのブランドが多い。
農林水産省では、代表例として次のようなブランドを紹介している。
| ブランド | 主な地域 | 特徴 |
|---|---|---|
| 徳谷トマト | 高知県 | 高知を代表する高糖度トマト |
| アメーラ | 静岡県など | 高糖度トマトのブランド |
| ブリックスナイン | 群馬県 | 糖度を重視したブランド |
| スーパーフルーツトマト | 茨城県 | 大玉品種を高糖度化 |
同じ「フルーツトマト」でも、一つの全国ブランドではない。
産地や生産者ごとに栽培方法や選果基準を作り、ブランド化している。
高知とフルーツトマトの関係
フルーツトマトを調べると、高知県の名前がよく出てくる。
高知は現在も高糖度トマトの産地として知られており、代表的なブランドに徳谷トマトがある。
農林水産省も代表的なフルーツトマトとして徳谷トマトを紹介している。
さらに高知県では、根域制限や日射比例かん水による高糖度トマト生産技術も研究されてきた。
高知のフルーツトマトは、単なる地域ブランドだけではなく、水分制御技術の蓄積とも結びついている。
くまもと塩トマトは少し特殊
高糖度トマトの中でも、くまもと塩トマトはかなり特殊だ。
一般的な高糖度トマトでは、農家が給水や根域を制限して水ストレスを与える。
一方、くまもと塩トマトでは、もともと塩分濃度が高い土壌を利用する。
土壌中に水分があっても、浸透圧の影響で根が吸水しにくくなるため、自然に強い水分ストレスがかかる。
そのため生産できる場所も限られる。
同じ高糖度トマトでも、人為的な水管理で作るものと、
その土地の土壌条件を利用するものがあるのは面白い違いだった。
なぜ普通のトマトより高い?
フルーツトマトが高価格になりやすい理由は、単に「甘いから高級」というだけではない。
水分を細かく管理し、糖度を高める栽培には手間がかかる。
根域制限設備や点滴かん水設備を使う場合には、その設備費も必要になる。
さらに高糖度化によって一個が小さくなったり、収量が低下したりする。
普通のトマトより少ない収量でも採算を取るには、一個あたりの販売単価を高くする必要がある。
品種によっては糖度を測定し、一定基準以上だけをブランド品として選別することもある。
高価格には、ブランド料だけでなく、生産量と栽培コストの違いも関係している。
甘ければ甘いほどおいしい?
フルーツトマトという名前からは、糖度が高いほどおいしいようにも感じる。
しかしトマトの味は糖だけで決まらない。
トマトには酸味やうま味もある。
糖度だけを極端に上げても、酸とのバランスや香り、
食感が合わなければ必ずしも全員がおいしいと感じるとは限らない。
実際、高糖度トマトを生産する農家の中にも、糖度だけではなく、
みずみずしさや酸味とのバランスを重視するところがある。
フルーツトマトの特徴は単なる砂糖のような甘さではなく、
水分が少なくなることで甘味・酸味・うま味がまとまって濃く感じられることにある。
普通のトマトより栄養も濃い?

水分が少なくなることで、果実重量あたりの成分濃度が高くなる場合はある。
実際、くまもと塩トマトでは、一般的な条件より果実が小さくなり、
果実重量あたりの糖類や遊離アミノ酸の含有量が高くなることが農林水産省の資料に示されている。
ただし、「フルーツトマトならすべて普通のトマトより栄養価が○倍」と一括りにはできない。
使う品種や栽培方法によって成分は変わる。
少なくとも、甘い=糖だけを後から加えているわけではなく、
果実そのものの水分量や成分バランスが変わった結果として濃い味になっている。
調べて思ったこと
フルーツトマトという名前を見て、最初は甘いトマト用の特別な品種があるのだと思っていた。
実際には、普通のトマトと同じ品種でも、水を吸える量を制限することで高糖度に仕上げられる。
特に面白かったのは、「水を減らせば甘くなる」という話の裏側だった。
単に水やりを忘れるような栽培ではなく、根が広がる範囲をシートで制限したり、
日射量に合わせて1回の給水量を調整したり、培養液の濃度を変えたりしている。
一方で、甘くすると果実は小さくなりやすく、収量も落ちる。
農家にとっては、糖度を高くするほど単純に儲かるわけではなく、
収量と品質の間でちょうどいいところを探す必要がある。
普通のトマトより値段が高い理由も、ブランドだけではなかった。
スーパーで小ぶりなフルーツトマトを見ると、サイズが小さいのに高いように感じる。
しかしその小ささ自体が、水を制限して味を濃くした結果でもある。
「大きく育てる」のとは逆方向の栽培をして、価値を作っているトマトだった。
出典
- 農林水産省「フルーツトマトについて教えてください」
- 農林水産省「トマトまるごと まるわかり!」
- 農林水産省「aff 2017年8月号」
- 農林水産省「くまもと塩トマト 地理的表示登録資料」
- 農研機構「自動灌水装置を用いた水分制御による半促成栽培トマトの高糖度化」
- 農研機構「根域制限栽培での日射比例かん水制御による高糖度トマトの多収技術」
- 農研機構「高糖度トマト根域制限式養液栽培のための2系統給液循環システム」
- 農研機構「糖度の高いトマト新品種 甘しずくの育成」

