北海道では、野生動物との距離感が本州と根本から違う

北海道の広い道路風景

北海道について調べていて、特に印象に残ったのが、野生動物との距離感だった。

本州に住んでいると、野生動物のニュースはどこか「山奥の出来事」として受け止めがちだ。しかし北海道では、それらが農業、道路、生活圏のすぐ近くに存在している。

しかも、その構造は単なる「自然が豊か」という言葉では片付かない。
農作物被害、交通事故、ジビエ、ハンター不足。北海道では、人間社会と巨大な生態系がかなり近い距離で共存している。

今回は、北海道の農業と野生動物の関係について整理してみたい。
ジビエ好きとしては北海道でしか捕れない野生動物もいるため、そこにも着目してほしい。

目次

本州で「当たり前」の動物が、北海道にはいない

まず、日本の野生鳥獣による農作物被害の全体像を見てみる。

ここにある数字を追っていくと、本州と北海道で前提条件そのものが違うことに気づく。

順位動物年間被害額主な地域
1位シカ約70億円北海道・本州全体
2位イノシシ約36億円九州・中国・四国など
3位カラス約13億円全国
4位サル約8億円長野・山口・和歌山など
5位アライグマ約5億円全国

※農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況(令和5年度)」を基に作成

全国2位の被害額を出しているイノシシは、北海道にはほぼ生息していない。

イノシシは寒冷地に弱く、その分布は本州以南に偏っているためだ。

本州の農業では当たり前に存在する動物が、北海道にはいない。逆に、北海道特有の動物が存在している。

なぜ生態系が違うのか?津軽海峡とブラキストン線

この違いを生んでいるのは、単なる寒さだけではない。

背景には、津軽海峡によって形成された「ブラキストン線」という生物地理学上の境界線がある。

北海道と本州を分けるブラキストン線のイメージ
津軽海峡を境に、本州と北海道では生態系が大きく異なる。

氷河期に海面が低下した時代でも、津軽海峡は完全には陸続きにならず、動物の移動を妨げ続けた。
その結果、本州と北海道では、生態系そのものが分かれていった。

■本州にいて北海道にいない主な動物

動物本州での位置づけ
イノシシ農作物被害全国2位
ツキノワグマ本州の熊
ニホンザル群れで農作物を荒らす
モグラ畑の地下を掘る
アナグマ人気ジビエ

■北海道にいて本州にいない主な動物

動物特徴
ヒグマ国内最大級の陸上動物
エゾシカ本州のシカより大型
キタキツネエキノコックス等の病原体保有

本州の農業が、多種類の中型動物との付き合いだとすれば、北海道では大型動物との距離がかなり近い構造になっている。

ゴキブリ等は有名であったが、イノシシやニホンザルがいないのは意外であり、独自の野生動物の世界があるように思える。

本州と北海道で異なる主な野生動物
本州と北海道では、生息する動物の種類そのものが異なっている。

北海道の農作物被害は、全国最大規模

北海道の広大な農地風景

農林水産省の資料によると、全国の野生鳥獣による農作物被害のうち、北海道は全体の約34%を占めている。

ただし、北海道は農業産出額そのものが全国最大規模であり、耕地面積や牧草地の広さも本州とは桁が違う。

そのため、被害額の絶対値だけを見ると単純比較は難しい。

一方で、シカ被害に限ると北海道の割合は突出している。

つまり北海道では、「農業規模が大きいから被害も大きい」というだけではなく、生態系そのものが農業経営へ強く影響している。

被害を受けているのは、農作物だけではない

北海道では、野生動物の問題が農業だけでなく、交通インフラや生活圏そのものにも影響している。

代表的なのが、エゾシカとの衝突事故だ。

全道での事故件数は年間5,000件を超えており、特に10〜11月、夕方から夜間にかけて多発している。

また、ヒグマによる人身被害件数そのものは多くないものの、200kgを超える大型動物との遭遇は、本州とは違う緊張感がある。

捕獲しても、食べられずに廃棄されている

「それだけシカがいるなら、ジビエを特産品として活用できるのではないか」と感じる人も多いと思う。

実際、エゾシカは年間十万頭単位で捕獲されている。ただ、そのうち食肉として流通する割合は一部に限られている。

背景には、処理施設不足だけでなく、ハンターの高齢化や搬送コストの問題がある。
広大な北海道では、捕獲地点から処理施設まで運ぶだけでも時間がかかる。

施設を増やせば解決するという単純な構造ではなく、人手・流通・採算性まで含めた問題になっている。

ジビエ好きの私としては流通が多くなり、気軽に手に入ればという気持ちもあったが、
加工場の設置や免許取得、野生動物ならではの加工のしづらさなどを考慮すると致し方ないと感じた。

本州で人気のジビエが、北海道には存在しない

ブラキストン線が生んだ生態系の違いは、食文化にも影響している。

例えば、本州では人気ジビエとして語られることもあるアナグマは、北海道には生息していない。
同じ日本の中でも、地域によって「存在する野生動物」そのものが違う。

農業だけでなく、食文化の前提条件まで変わっている。

ジビエが好きで野生動物が多いだろうという考えで北海道に移住する際には気を付けておきたい。

まとめ

北海道の野生動物の話は、「自然が豊か」という観光的な言葉だけでは整理しきれない。

  • 農作物被害
  • 交通事故
  • 狩猟
  • ジビエ
  • 流通

どこを切り取っても、本州とは生態系そのものが違っている。
ブラキストン線という境界線が、同じ日本の中に全く異なる前提条件を作っているのだ。

北海道では、野生動物が「山の奥」にいる存在ではなく、農業や生活圏のすぐ近くに存在しており、
それは単なる自然環境の違いではなく、地域そのものの構造が本州とは違うということなのかもしれない。

出典・参考情報

・農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況(令和5年度)
・農林水産省「北海道農業の概要
・北海道庁「エゾシカ対策について
・北海道庁「ヒグマ対策について
・農林水産省「鳥獣被害対策
・北海道松前町「ブラキストン線

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この記事を書いた人

会社員として働きながら、食・産地・地方・農業への解像度を少しずつ上げていく記録を発信しています。

直売所や地方の空気、食材、生産背景、新規就農について考えたことを中心にまとめています。

都市生活や暮らしの工夫については「Field Note Life」でも発信しています。

https://fieldnote-life.com/

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