私はラム肉が好きだ。
北海道へ行けばジンギスカンは外さないし、焼肉でもラムを選ぶことが多い。
ただ、毎回思うことがある。牛・豚・鶏はどこのスーパーにでもあるのに、なぜラム肉はこんなにも見かけないのか。
羊肉は実はかなり優秀な食材
羊肉はヘルシーな肉として知られている。
ラム肉のカロリーは100gあたり198kcalで、牛肉(259kcal)や鶏肉(204kcal)と比べて低い。ビタミンB群や不飽和脂肪酸も豊富に含まれている。
特に注目されるのがL-カルニチンで、牛肉の約2.2倍、鶏肉の約16倍が含まれている。脂肪燃焼を助ける成分として知られており、加齢とともに体内での生産量が減っていく。
栄養面だけ見れば、もっと食べられていい食材だ。ではなぜ広がらなかったのだろうか。
消費量の差
まず現状を数字で確認しておく。
| 肉の種類 | 一人当たり年間消費量(2022年度) |
|---|---|
| 鶏肉 | 14.6kg |
| 豚肉 | 13.1kg |
| 牛肉 | 6.2kg |
| 羊肉 | 約200g |
(出典:農林水産省「食料需給表」2022年度より)
羊肉だけが別次元の少なさだ。
宗教と食文化の制約
世界で羊肉消費が多い地域を見ると、中東・北アフリカ・中央アジアに集中している。
イスラム教では豚肉が禁じられており、牛・羊・鶏などがハラール処理を経て食されている。豚が選べない文化圏では、羊は自然と主要な肉になった。
日本を含む東アジアでは豚も牛も食べることができる。
宗教的な制約がない分、羊を選ぶ必然性がそもそもなかった。
飼育コストの問題

宗教的な需要がない国では、最終的にコストの話になる。
羊そのものが飼えないわけではない。しかし日本では北海道など一部地域を除き、大規模放牧が難しい。
一方でオーストラリアやニュージーランドは広大な土地を活かした超大規模生産を行っている。
そのため輸送費を払っても海外産の方が安く、日本国内で羊肉産業を拡大するハードルは高い。
現在、日本国内の羊肉生産量は年間約140tに対し、輸入量は約2万tと言われている。
豚や鶏が低コストで大量供給できる環境が整った後に、わざわざ羊を国内産業として育てる動機は生まれにくかった。
歴史的に「食べるもの」として入ってこなかった
日本には明治維新以降にオーストラリアから羊がもたらされた。
しかし目的は食肉ではなく、羊毛を取ることだった。
その後、輸入羊毛や化学繊維が普及すると羊毛需要は減少した。
食肉として利用されるようになったものの、本州では食べる習慣そのものが大きく育たなかった。
また、かつては生後一年以上のマトンが輸入・流通していたため、「羊肉は臭い」というイメージが定着してしまった。現在の流通はクセの少ないラムが中心だが、その印象は今も残っている。
北海道だけが例外なのは、文化が育つタイミングがあったから

]北海道では羊毛国策の時代に羊との関わりが深かった。
さらに消費拡大のための食べ方としてジンギスカンが広まり、食文化として定着した。
道内のスーパーでは鶏肉・豚肉・牛肉と並んでラム肉が普通に販売されている。
花見や海水浴でジンギスカンをする文化もあり、本州との距離感はかなり違う。
同じきっかけが本州にはなかった。
どこで買えるのか

羊肉は牛肉や豚肉ほど一般的ではないが、探せば購入できる場所はある。
| 購入場所 | 特徴 |
| 肉のハナマサ | ラム肉やマトンを比較的見つけやすい |
| イオンなど大型スーパー | 一部店舗で冷凍ラム肉を販売 |
| ハラールスーパー | 羊肉の取り扱いが多い |
| 通販(Amazonなど) | オーストラリア産やニュージーランド産が購入しやすい |
| 農家直販EC(ポケットマルシェ | 国産羊肉を農家から直接買える |
特に東京では、新大久保・大久保周辺のハラールスーパーで羊肉を見かけることが多い。
例えば、
- Green Nasco
- Tokyo Halal Market
- Bismillah Halal Food
などでは、ラム肉やマトンを取り扱っている。
私自身も大久保周辺を歩いた際に、普通のスーパーでは見かけない量の羊肉が並んでいて驚いた。
牛肉や豚肉のようにどこでも買えるわけではないが、探してみると意外と身近な場所でも手に入る。
まとめ
羊肉が広がらなかった背景には、いくつかの要因が絡んでいる。
宗教的な制約がある地域では豚の代替として羊が選ばれてきたが、日本ではその必然性がなかった。
さらに、オーストラリアやニュージーランドの大規模生産と競争しなければならず、国内で羊産業を育てるハードルも高かった。
そこに「臭い」というイメージが重なり、消費の循環が生まれなかった。
北海道でジンギスカンが当たり前なのは、歴史的な背景と食文化がたまたま結びついた結果なのだと思う。
なぜ国産羊がこれほど少ないのか、産業として広がらない構造的な理由については、別の記事で整理したい。

出典
- 農林水産省「食料需給表」(2022年度)
- 農林水産省「めん羊・山羊をめぐる情勢」
- 農林水産省「うちの郷土料理 ジンギスカン 北海道」
- 島田謙一郎ほか「国産サフォーク種とニュージーランド産ロムニー種におけるラム肉の肉質の比較」食肉の科学 Vol.65, No.1(2024)

