農業で儲かる作物はあるのか|所得データから見えてきた現実

農業で儲かる作物はあるのかを所得データから比較したイメージ
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農業をやるなら何を作ればいいのか。

就農を考え始めたとき、ほぼ確実に突き当たる問いだと思う。実際に私も最初に考えた。

「アスパラは儲かる」「いちごは高収益」「シャインマスカットは単価が高い」。

そういう話はあちこちで聞く。ただ、調べていくうちに、「儲かる作物ランキング」を作ること自体があまり意味をなさないとわかってきた。

この記事では、複数の都道府県が公表している農業経営指標のデータをもとに、主要品目の収益性を調べた過程と、そこから見えてきたことを書いておく。

目次

「農業所得」と「売上」は別の話

作物の収益を調べようとすると、最初にぶつかるのがこの問題だ。

農業の「売上」にあたるのは農業粗収益で、作物の販売金額の合計に近い数字だ。

そこから、

  • 肥料代
  • 農薬代
  • 燃料代
  • 資材費
  • 雇用費
  • 減価償却費

などを差し引いた残りが農業所得になる。

この差が品目によってかなり大きい。

例えば長野県の経営指標(令和4年版)では、施設いちご(促成・高設栽培)の粗収益は10a当たり461万円だが、農業所得は54万円で所得率は11.8%になる。

売上の約9割がコストで消える計算だ。

一方、シャインマスカット(露地)は粗収益254万円に対して農業所得146万円、所得率57.5%。

いちごより売上規模は小さいが、手元に残る割合はずっと高い。

「高収益作物」という言葉が、売上ベースで語られているのか所得ベースで語られているのかで、話はまったく変わってくる。

施設いちごを例にした売上と農業所得の違い

労働時間を加えると、さらに見え方が変わる

所得の次に確認すべきなのが労働時間だ。

農業は作物によって労働の集中度が大きく異なる。

長野県の経営指標から、10a当たりの農業所得と労働時間、そこから算出した時間当たり所得を並べると次のようになる。

主要作物の所得と労働時間を比較したポジションマップ
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品目・作型10a農業所得10a労働時間時間当たり所得
シャインマスカット・露地146万円307h4,760円
シャインマスカット・3月加温234万円387h6,058円
きゅうり・夏秋195万円882h2,248円
アスパラガス・半促成長期97万円436h2,228円
いちご・夏秋高設149万円1,072h1,389円
トマト・雨よけ80万円470h1,710円
ねぎ・露地37万円296h1,266円
アスパラガス・露地44万円360h1,401円
いちご・促成高設54万円1,102h494円

出典:長野県農政部「作目別経営指標一覧表(令和4年版)

シャインマスカット(3月加温)の時間当たり所得6,058円に対して、施設いちご(促成高設)は494円。

約12倍の差がある。

いちごの促成高設は粗収益461万円と数字だけ見れば大きいが、1,102時間の労働に対する時間単価は494円で、最低賃金を大幅に下回る水準になる。

設備投資の回収期間を加えると、さらに厳しくなる。

同じ作物でも、地域が変わると数字が変わる

もう一つ見えてきたのが地域差の大きさだ。

アスパラガスを例にすると、長野・岡山・北海道でデータを並べると次のようになる。

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出典作型収量(10a)10a粗収益10a所得労働時間
長野県R4露地750kg84万円44万円360h
長野県R4半促成・長期1,875kg234万円97万円436h
岡山県R2露地1,800kg222万円102万円370h
北海道 第6版露地500kg66万円57万円※150h

※北海道は貢献利益(変動費控除後・固定費未控除)のため他県と直接比較不可

出典:長野県農政部「作目別経営指標一覧表(令和4年版)」、岡山県担い手育成総合支援協議会「就農ガイドR3」、北海道農政部「北海道農業生産技術体系 第6版

北海道の露地アスパラは収量500kgで、岡山の1,800kgと3.6倍の差がある。

気候・作型・栽培技術体系の違いが収量に直接影響している。

「アスパラが儲かるかどうか」は、どの地域でどの作型で作るかによって答えが変わる。

地域差だけでなく、品種差も大きい

地域差だけでなく、同じ作物の中でも収益差は存在する。

その代表例がぶどうだ。

品種・作型10a粗収益10a農業所得所得率労働時間時間当たり所得
巨峰・露地125万円34万円27.3%311h1,094円
シャインマスカット・露地254万円146万円57.5%307h4,760円
シャインマスカット・3月加温548万円234万円42.8%387h6,058円

出典:長野県農政部「作目別経営指標一覧表(令和4年版)

巨峰とシャインマスカットは労働時間がほぼ同じにもかかわらず、農業所得は4倍以上の差がある。

品種選定が収益に直結する作物だということが分かる。

ただし農林水産省の品目別経営統計(平成19年産、全国平均)では、ぶどう全体の10a所得は34万円にとどまる。

シャインマスカットの数字は、技術力と産地条件が揃った熟練農家の試算であり、就農直後から再現できる数字ではない点には注意が必要だ。

「儲かる作物」という問いの立て方が間違っている

調べた結論として、「儲かる作物ランキング」を作ることに意味はないと感じた。

理由は三つある。

① 所得は地域・作型・品種・販路で決まる

同じアスパラでも地域によって収量が3倍以上変わる。

同じぶどうでも品種で所得が4倍変わる。

「作物」という単位だけでは収益を語れない。

② 労働時間を見ないと比較にならない

粗収益が大きい作物が、手元に残る金額も大きいとは限らない。

また、所得が大きくても労働時間が比例以上に増えれば時間単価は下がる。

③ 初期投資と経営フェーズで話が変わる

施設野菜や果樹は設備投資が重い。

回収期間中は実質所得がさらに下がる。

こうした要素は、経営指標の数字だけでは見えない。

「何を作るか」の前に、

  • どこで作るのか
  • どう売るのか
  • どれくらいの規模で始めるのか

を考えないと、収益の試算自体が成立しないのだと思う。

作物ごとの所得・労働量・初期投資の比較表

詳細なデータはこちら

今回調べた品目別・都道府県別の所得データは、別記事にまとめている。

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この記事を書いた人

会社員として働きながら、食・産地・地方・農業への解像度を少しずつ上げていく記録を発信しています。

直売所や地方の空気、食材、生産背景、新規就農について考えたことを中心にまとめています。

都市生活や暮らしの工夫については「Field Note Life」でも発信しています。

https://fieldnote-life.com/

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