スーパーに並ぶぶどうを見ていると、山梨・長野・岡山といった産地名が目に入ることが多い。
よく見ると、かなり限られた地域に集中している。
なぜぶどうは「作れる場所」がここまで偏るのか。食用とワイン用の違いも含めて、産地が形成される構造を整理してみた。
ぶどうには「食用」と「ワイン用」がある
同じ「ぶどう」でも、気候への要求も栽培方法もかなり違う。産地を考えるときも、分けて見た方がわかりやすい。
食用ぶどう
食用で代表的なのは、シャインマスカット・巨峰・デラウェアなど。
甘さ・見た目・粒の大きさ・皮の薄さが重視される。贈答品としての需要も高く、見た目の美しさが価格に直結しやすい。
ワイン用ぶどう
ワイン用は、メルロー・シャルドネ・マスカット・ベーリーAなどが代表的。
糖度と酸のバランス・香りの複雑さ・醸造への適性が優先される。粒は小さく、水分量が少ない方が好まれることも多い。
実はかなり雨に弱い
日本のように雨の多い気候は本来、ぶどうの栽培に向かず、病害や虫害が出やすい。湿気が高い環境ではべと病・晩腐病・灰色かび病といった病気が出やすくなる。
梅雨の時期に雨が続くと、果実が水を吸いすぎて裂果(実が割れること)が起きることもある。
だから産地は自然と、雨が少なく水はけのよい地形の場所に絞られていく。
実際の収穫量で見ると、偏りはかなり大きい
023年産の都道府県別収穫量割合は、山梨県が25%、長野県が19%、岡山県が9%、山形県が8%、北海道が5%で、この5県で全国の約7割を占めている。(出典:農林水産省「令和5年産作物統計(果樹)」)
| 順位 | 都道府県 | 収穫量(t) | 全国比 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 山梨 | 41,700 | 25.0% |
| 2位 | 長野 | 31,400 | 18.8% |
| 3位 | 岡山 | 15,300 | 9.2% |
| 4位 | 山形 | 13,800 | 8.3% |
| 5位 | 北海道 | 7,760 | 4.6% |
| 6位 | 福岡 | 6,850 | 4.1% |
| 7位 | 大阪 | 3,520 | 2.1% |
| 全国計 | ― | 167,000 | 100% |
上位4県で全体の6割を超えていて、偏りの大きさがよくわかる。
大阪と北海道は意外だったかもしれないが、北海道はワイン用のぶどうを多く作っているため直接目にすることが少ないのだ。
大阪はぶどうの名産地
大阪が7位に入っているのは、都道府県の面積を考えると決して少ない数字ではない。
南河内・柏原・羽曳野を中心に、斜面の水はけと日照を活かした産地が形成されている。
柏原市では明治17年に甲州ぶどうの栽培に成功し、昭和初期には大阪府のぶどう生産量は全国第1位となり、柏原市は全国一のぶどう産地と言われるようになった。
昭和3年から10年の間には大阪府は山梨県・岡山県を抜いて第1位の生産量のぶどう産地になった。
その後、台風被害や都市化による農地減少で順位を落としたが、主力品種のデラウェアは現在でも全国3位の生産量を記録している。
食用とワイン用で、向いている土地がかなり違う
食用は「日照と消費地の近さ」、ワイン用は「冷涼・水はけ・凝縮感」という方向性の違いがある。
食用ぶどうが向く土地
食用は、果実を大きく・甘く・見た目よく育てることが求められる。山梨・岡山・大阪のように日照が多く消費地に近い立地が強みになりやすい。
また前述した通り水はけが大事になっており、大阪などでは斜面を利用して育てられることが多い
ワイン用ぶどうが向く土地
ワイン用は、果実の水分量を抑えて糖と酸を凝縮させることが重要になる。ヨーロッパ種はヨーロッパ中部・南部などの降水量の少ない乾燥した土地で栽培されるもので、ワインの原料としてはこの品種が最も向いていると言われている。冷涼で昼夜の寒暖差が大きく、水はけのよい痩せた土地を好む品種が多い。
なぜ日本のぶどう畑は「棚式」なのか

海外のぶどう畑は地面から支柱を立てて枝を横に広げる「垣根式」が多い。
一方、日本の食用ぶどう畑の多くは、頭上に棚を張ってつるを這わせる「棚式」だ。
日本は雨量が多く高温多湿なので、地面が湿っているとぶどうが病害にかかりやすい。そうしたリスクを避けるために、地面からできるだけぶどうを離す棚式栽培が採用された。
ただしこの構造には副作用がある。ぶどうは年間の作業時間が多い樹種で、労力がかかるため経営規模を拡大するのが難しいという問題がある。また棚栽培では両腕を長時間上げて作業しなければならない。海外の垣根式は機械での収穫や管理がしやすく大規模経営との相性がよい。
日本の棚式は品質を高める設計だが、大規模化・機械化のハードルが上がる構造になっている。
今後農業人口が減っていく際に、この棚式を維持しつつ機械化を導入できるかどうかを個人的には注目していきたい。
ワイン用は「日本式」を脱して、海外様式を取り入れている

かつては棚式栽培が日本では主流だったが、ワイン用ぶどうに棚式で育てた実を使うと凝縮感に欠けるため、欧州で主流の垣根式栽培を導入した。1本の木から収穫されるぶどうの数を制限することで凝縮感を出し、おいしいワインができる。
品種も海外の影響を大きく受けており、シャルドネは北海道・岩手・長野・福島・新潟・山梨など幅広い産地で主に垣根仕立てで栽培されており、メルローも長野県塩尻市が特に有名だがさまざまな産地で栽培されている。
食用ぶどうが「日本の高温多湿に対応するために棚式・品種改良で独自進化した」のに対し、ワイン用は「海外品種・垣根式をそのまま持ち込みながら日本の冷涼地に産地を選んできた」という流れがある。
そのためワイン用のぶどうは北海道などの地域で、一部の作業を機械化できてきている。
日本独自の品種は、いま海外でも評価が高まっている
日本のように雨の多い気候は本来ぶどう栽培に向かないが、研究者や生産者が品種改良に取り組み、日本の気候に適し耐病性を兼ね備えた品種を次々に誕生させてきた。
世界で生産されるぶどうの7割はワイン用だが、日本では生食用が9割を占める。
シャインマスカットはその代表格で、農研機構が開発し交配から品種登録まで18年かけた品種だ。
皮ごと食べられて、雨の多い日本の気候でも裂果しないぶどうを作ることを目指して研究が進められた。
こうした日本独自の品種は、海外からの引き合いも強くなっている。
日本のぶどう輸出額はこの10年で10倍以上増加しており、その多くをシャインマスカットが占めると言われている。
主な輸出先は香港・台湾・シンガポールなどアジア圏で、贈答需要が厚い。
ただし課題もある。シャインマスカットは日本で品種登録されたが中国へ無断で持ち出され、農林水産省は損失が年間100億円以上に上るという試算をまとめている。品種の価値をどう守るかは、日本の果樹産業全体の課題になりつつあるのを覚えておいてほしい。

最後に
スーパーでは当たり前に並んでいるぶどうは、実際にはかなり土地条件を選ぶ作物だ。
雨、湿気、日照、地形など、そうした条件が重なる場所に、長い時間をかけて産地が形成されていった。
「なぜその土地でぶどうが作られているのか」「どういった作業がぶどう作りで必要なのか」を見ると、
普段目にするぶどうがまた違った価値を持って見えてくる。
データ出典
収穫量:農林水産省「令和5年産作物統計(果樹)」(2024年2月公表)
